「びっくりしたか?」
「はい、しました、それと、前のお祭りの時って、もしかして合格祝いもかねてませんでした?」
「おー、察しがいいな、そうそう、前は吃驚させたくて黙ってたけどよ、これでお前等二人の門出をしっかり祝ってやれたな」
「それはどうも…」
「なー龍児、良かったな?これで、これから毎日豪星に会えるぞ?」
「………ん」
口の端を盛大に汚していた龍児が、その時だけは咀嚼を止めて、こくこくと嬉しそうに頷いた。
その隙をついて、数枚抜き取ったティッシュを使い龍児の口まわりをごしごしと拭う。
大人しくそれを受けていた龍児が、すっきりした口元で「すまん」と小さく詫びた。
それを見ていた須藤が「そうしてると、ほんと兄弟みたいだなー」と、何時かに聞いた台詞を、炭酸の泡と一緒に、楽しそうに零す。
「いやーけど、まさか高校受験の手伝いする事になるとはな、去年の俺じゃ思いもしなかったわ」
「ああ、それで部屋に教材とかおいてあったんですね」
「そうそう」
「俺の知らない内に勉強、頑張ったんだね、龍児君」
あまり得意そうではないのに、という、余計なひと言は伏せて褒めると、途端龍児が満面の笑みを浮かべて頷いた。
こんなに笑顔になるとは、想像通り、余程得意では無かったのだろう。
「俺、がんばったぞ!豪星!」
「そっか、えらいえらい」
「一応自己採点させたら、ギリギリ、合格点にいったんだよ、ほんとにぎりぎりだったから、あん時はひやっとしたぜ」
「あれ、そういえば面接はどうだったの?」
ギリギリ合格点だったという事は、面接の時点で誰かと合否を切迫した可能性がある筈だ。
テストは何とかなっても、この元来の不器用さが当日だけ治ったとは考えにくい。このまま挑んだ筈だ。という事は?
突然、須藤が明後日の方を向き、それに反して、龍児が拳をぎゅっと握りしめた。その顔は誇らしげだ。
ぽつり、須藤が、小さな声で「練習はさせたんだ」と呟く。
「名前!ちゃんと名前言えたぞ!よろしくお願いしますも言えた!」
「………」
「…………親父さん、なにかしました?」
ストレートな意見に、彼が合格した可能性を本人から保護者へ移した。須藤は未だ、明後日の方を向いたまま、煙草を吸い始めた。
おい保護者、こっち見ろ。
「親父さん」
「……いや、別に?ただちょっと、お前の学校の教師に知り合いが居るだけだ」
おい、なにかしまくってるだろそれ。
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