豪星の律儀な返答に、ふと考え込み始めた龍児だったが、五分と立たずに顔を上げ、豪星の顔を見て笑顔を浮かべた。
そこには何故か、謎の安心感が満ちている。
「大丈夫だ、豪星…!」
「えーと、なにが?」
「お前が普通じゃなくても、ホモでも!!俺はずっとお前の友達だから!!」
わー。面と向かって友達にホモ認定されると、すっげぇ複雑…。
「…ははは、ありがとう、それより龍児君、さっきから猫汰さんに失礼だよ?ほら、ちゃんと謝って」
「……むう」
龍児の態度を改めるように言ってから直ぐ、猫汰が豪星の腕を一層掴んで「そうだよー!」と、自ら加勢を始めた。
「俺、とっても傷ついちゃったからさぁ?男の子なら、ばしっとかっこよく、俺に謝ってくんない?」
「おう、わりーな豚野郎、絆創膏やろうか?」
「………………………………………………………あ?」
「りゅ、龍児君、ちょっとこっち…こっちきて…」
低い呻きを上げてから、笑顔で黙り込んでしまった猫汰の腕をそっと解き、龍児を少し離れた場所までぐいぐい押し進める。
きょとんとしている龍児に、小声で「ちょっと!」と詰め寄った。
「今の何!?」
「俺が良くケガするからって、おっさんが、いっぱいくれた」
そう言って取り出されたのは、両手いっぱいの絆創膏。…いやいやいや!相変わらず噛み合ってないから!
「いる?」
「そうじゃなくてね!あの、豚野郎ってなに!?」
「あ?そっちか?だってアイツ、メスみたいな匂いするし、豚みてぇにうるせえから、似合ってんなぁと思って」
「ええええええ!?」
全く悪びれずに、けろっと言うので大層驚いてしまったが、その内、ふと視線を落とした龍児が、今度は目に見えて嫌そうに「俺、アイツ好きじゃない、嫌い」と呟いた。
「アイツの目、嫌い」
「いや、そうは言っても…」
人の部位の良し悪しなど人それぞれなので、気に入らなくてもどうしようもない。
それを、言葉無く察したらしい龍児が、直ぐに「わるい」と謝った。
「余計なこと言った、俺、もう教室戻るから」
「あ、うん」
そのまま、踵を返して去っていこうとした龍児だったが、一度立ち止まってから、後ろを向いて笑みを浮かべた。
そして「また昼過ぎにな!」と、片手を上げると、今度こそ一年校舎の方へ去って行った。
学校が終わり、約束通り須藤に連れられ家に向かうと、玄関に入ったところで、丁度庭まで出迎えに来ていた龍児と共に「お前等、入学と進級おめでとー!」と、古風なクラッカーで労われた。
火薬の名残を鼻でかぎながら、「ありがとうございます」と頬をかく。
居間に通されると、以前、祭りの時に出されたご馳走と同じくらい豪勢な料理が机の上に並べられていた。
何故か、真中にはケーキも置いてあって、そのまた真中には、小さな板チョコに「おめでとう」と、白いチョコレート文字が書かれていた。
学校のお祝いというより、まるで誰かの誕生日のようだ。
「今日お前が来るのに合わせて入学祝いをとっておいたんだ、たくさんくえよー?」
須藤が、早速缶のビールを開けて食事を始めたので、豪星も遠慮せず手を合わせた。
横では、龍児が、山のように積まれたハンバーグを、二つずつ、口に詰め込んでいる。
エビフライ(以前食べた時にとても気に入った)を食べていた豪星だったが、不意に、須藤と目が合った。
にやにや笑うその顔の思惑を何となく察して、まず、かみ砕いたエビフライを飲み込んだ。
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