「あ、あの、ごうせい」

「ん?どうかした?」

二度感心している所に、龍児がもじもじと身を縮め、何かを言いたげにどもり始めた。

根気よく、彼が話始めるのを待って、数分後。

「今日!一緒に!かえ」

「ダーリーン!ダーリンどこー!」

龍児が放とうとした第一声が、向こうからやってきた声に被って消える。

龍児が不機嫌そうな顔になって、廊下の向こうをギョロリと睨む。振り返ると、いつの間にか猫汰が至近距離にまで歩み寄っていた。

「あ、いたいた!…ダーリン、その子だれ?」

「ああ、友達なんです」

黙り込んでしまった龍児に片手を振って紹介すると、一瞬、目を細めた猫汰が、直ぐ、にっこり笑って「そうなんだ」と頷いた。

「はじめまして、一年生かな?お名前は?」

「なんか女くせぇな、お前」

挨拶のため前に出した猫汰の手が、龍児の噛み合わない返答によって、びしりと固まった。ついでに豪星も固まってしまう。

二人に構わず、龍児は猫汰におもむろに近づくと、すんすん、あたりの匂いを嗅いでから、うぇ、と舌を出した。

「すげぇメスみたいな匂いがする」

「…斬新なお友達だね、ダーリン」

感情の読み取れない猫汰の声に、どう答えて良いか分からず「そうですかね」と、なんとも言えない声が出た。

その内、ふーと、息を吐いた猫汰が、ぎゅうと豪星の片腕に抱き着いて「まぁいいけどー」と、呆れた声を出す。

「それよりダーリン、そろそろ教室に戻ろうよ」

「あ、そうですね」

「というわけで、じゃあねー、一年生くん、迷わずに戻るんだよー?」

猫汰は豪星を連れて教室に戻ろうとしたが、その背後から、龍児が手を伸ばし、片方の腕を掴んで止めた。

また振り向くと、龍児は目つきの悪い顔を更に悪くさせて、じっと、猫汰の方を上目遣いで睨んでいる。

白けた顔で、同じく振り返った猫汰に「おい」と、低い声を出す。

「豪星に慣れなれしくするな」

「はーい?」

「お前豪星のなんだ」

「…えー?彼氏ですけどー?」

少しも隠さず、堂々と答えた猫汰の言葉に、構えていなかった豪星の方が戸惑ってしまう。

この手の事情を龍児に一度もしたことがなかったので、案の定、相手は目を限界まで開き、「かれし!?」と、大げさに驚いて見せた。

「豪星!お前女だったのか!?」

「いや、違うよ、知ってるでしょ?」

「…お、男って、彼氏が作れるのか?」

「いや、普通は作れないよ?」

「……っ!」

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