降りた駅から直ぐ近くに建てられた、鮮やかな建造物に目を奪われる。

早速、その下にまで小走りで移動した猫汰が、その下で「ダーリン、はやくー!」と、何時もよりテンションの高い声で豪星を呼んだ。

慌てて、豪星も猫汰の傍へと走り寄る。

走り寄った向こう側では、数多の店が肩を寄せて並んでいた。その真ん中を大勢の人がすれ違っていく様は、舌を巻く程圧巻だ。

「すごい人だねー!」

「はい、すごいです、吃驚しました」

「あ、見て見て!着物の貸し出しだって!」

人並みと景観に目が釘づけになっていた豪星の服の裾を、猫汰が横からぐいぐいと引っ張る。

つられた方向を見ると、自分達が立っている場所から斜め右くらいに「着物、貸し出します」と書かれた看板が立っていた。

しきりに、それを指しては「折角だし着ようよ!」と強いてくる猫汰の誘いに、一分程悩んでからあっさりと頷いた。

頷いておいてなんだが、何時もは考えもしない行動だと思った。どうやら、実感以上に興奮しているみたいだ。

早速、看板を掲げた店に入り、何着かを見本で飾られた着物のうち、お互い目についたものを選ぶと、手早く着付けをしてもらった。

「………わー」

外に出てから、店の硝子に映った見たこともない自分の姿を見て、今更羞恥を覚える。

隣で立っている、相変わらず着こなし抜群の猫汰と自分を交互に見ると、余計に自分の姿が恥ずかしくなる。

やっぱり、ちょっと、考え無しが過ぎたかな…と、少し不安になっていた豪星の肩を、突然、猫汰がガシリ!!と掴んできた。

びっくりして両肩を上げた豪星の目の前で、猫汰がじっと、力強い眼差しを向けてくる。

「…かっこいいっ!!」

「へ?」

「ダーリン!何時もかっこいいけどその格好、一段とかっこいい…っ!似合うよ!その鼠色の着物!首元がなんて厭らしいの!?超色っぽい!あとあとあと!俺があげたアクセサリーつけてくれたんだね!?もうやだ!それ、さっき、ちらっと見えた時、俺、死ぬかと思った!ダーリンがかっこよすぎて、俺死んじゃう!!」

「…ほ、ほんとですか?」

「それ俺の台詞!嘘だと言って!もー!幸せ!!」

…猫汰の方が絶対似合っている。

上手に崩している何時もの着方と違って、固めに誂えた着物を着こなす猫汰の装いは何時も以上に完璧だ。

着付けをしてくれた人だって、豪星の方よりも猫汰の方が断然、出来栄えに盛り上がっていた気がする。

けど、そんな、完璧にカッコいい人が、こんなにベタに褒めてくれるのは…悪くない、かも。

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