暫く彼の姿を眺めていたが、彼の周りに誰もいない事と、このまま戻れないのは困るだろうを判断してから、豪星は足先を彼の元へ向けた。
豪星に背を向けている一年生から、ほんの一メートル程離れた距離まで来て「あの」と声をかけようとした、瞬間。あれ?と、強烈な既視感に襲われた。
…何だか、見覚えのある背中じゃないか?髪型も、背丈も。まるで見慣れたもののようだ。
その疑問は、豪星の気配に気づいた相手が、くるりと振り返った途端、あっという間に解消された。
「…ごうせー!!」
「え!?あれ!?龍児君!?」
「おう!」
持っていた箒を傍に放り出した龍児が、豪星に駆け寄って、制服の裾をぎゅ!と掴んで来た。
嬉しそうに笑う姿に、目が白黒とする。
「え!?どうして此処にいるの!?須藤さんの家に行くの、今日の昼過ぎからだったよね!?迎えに来たの?でも、駄目だよ勝手に入っちゃ…って、あれ」
一頻り捲し立てた後、はて、そういえばどうして自分が此処まで歩いてきたかを思い出して首を傾げた。
それに気付いたのか否か、龍児が自分の胸元を人差し指で、ぴ!と指して見せた。
「俺、今年から、此処の生徒!」
「そうなの!?」
見れば分かる事だけれど、今まで切り離していたものが瞬時にくっついた感覚に、戸惑いを隠せない。
せめて、先に言ってくれれば良かったのにと言う豪星に、龍児が目をキラリとさせて、ぶんぶん頭を強く振った。
「おっさんに、驚かせてやれって言われて黙ってたんだ、…驚いた?」
悪戯が成功したような顔で、わくわく、返事を待機される。
うーんと、目線を上に上げて、から、ふ、と苦笑した。
「うん、凄く驚いた、でも嬉しい」
「…!」
「そっか、龍児君、今年から同じ学校なんだね、龍児君は一年校舎だよね?何組になった?」
「さんくみ!」
「三組か、購買に近くて良かったね」
「こうばいってなんだ?」
「ああ、中学には購買が無いところが多いもんね、…あれ?でも、うーん?」
拙いイントネーションを飛ばす龍児だが、予め教室や設備の説明は受けている筈だ。
多分、その時はよく分からずに通してしまったのだろう。
購買などは特に、彼はお世話になりそうだから、また暇を見てきちんと教えてあげよう。
「ごうせー?」
「ううん、何でもない、また色々教えてあげるから、もしよかったらこっちにまた遊びにきてね?」
「おう!」
聞けば、どうやら龍児は豪星を探してこの辺りを彷徨っていたらしい。
よく近くまで来られたね、と感心していると、傍に落ちていた箒を拾って目の前に見せられた。
一瞬何のことが分からず呆けたが、先ほど聞こえた箒の落ちる音と、箒の柄の長さを見て納得した。
成程、このチート能力は学校でも健在という訳か。
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