父親が早速みやげをふかし始めたので、その隣で、適当なカップを二つ用意した。

「俺も良い?」と、なにとは言わずに告げると、一瞬、父親が呆気にとられた後、にやにや顔で肩を組んできた。

「何々?豪星君、最近すっかりワルソウだね?」

「なにそれ」

「悪ガキって意味ですよー」

いわゆる、子供の非行を指している。ということか。

確かにそうかもしれないけど、実際飲んだところで、何がどうこうしたものでも無いじゃないか。

「何が悪ガキだよ、ただ売ってるものを飲み食いしてるだけの話だろ」

若干、皮肉を込めた物言いに、もう一度父親が呆気にとられてから、含み笑いを浮かべた。

「言うようになったなぁ」と、噛みしめるように言われる。どういう意味かは、敢えて言及しないでおいた。

練り物をふかしおえると、器にどさどさと無造作に盛って、箸を二膳傍らに置いた。

豪星が用意したカップになみなみと、旅先で手に入れた酒を注いだ父親が、その表面に鼻を近づけて、香りを吸い込む。

なんとなく、豪星もそれを真似て匂いを嗅いでみた。つんとするような、何かの花のような、不思議と唾の湧いてくる匂いだ。

練り物を熱いうちに頬張っていた父親が、酒を一口飲んだところで「猫ちゃんとの旅行、どうだった?」と旅先の経過と結果を尋ねてきた。

一瞬、う、と口ごもる。カップを置いて目を逸らした。

思い出すのはどうしても、大変に楽しんだ昼間と、大変なことになった夜間のことだ。

どう、感想にまとめて良いか、迷ってから、結局素直に零す事にした。

「…凄く楽しかった、けど」

「うん?けど?」

「………ね、寝るとき、おし、倒された…」

た、と、締めたところで、父親が「ぶっは!」と、飲んでいた酒を拭きだした。飛んだ飛沫が腕にかかる。

眉を顰める豪星などお構いなしに、父親は畳に転がりゲラゲラと笑い転げ始めた。

顔が真っ赤になるまでそれを続けた後(蹴り飛ばしてやろうかと思った)父親は半身を「よ!」と起こしながら、涙目を擦り「そうかそうか」と呟いた。

「猫ちゃん、僕がお泊り駄目って言ったからそう来たか!頭良いな!あ、もしかして、今回の旅行を誘う前からそのつもりだったのかなぁ?」

「知らないよ…!」

「で?童貞は守れた?それとも食べられちゃった?」

締めくくりの言葉に今度こそ足が出た。逃げそびれたらしい父親の脛に、がん!!と片足をぶち当てる。

今度は痛みに転がる父親の頭上で「嫌な言い方するな!」と、思い切り叫んだ。

「いででで!ごめん!童貞切りたてにはデリケートな話題だったね!」

「してないし!!さ、されそうにはなったけど…してないから!!」

「え?してないの?なーんだ、豪星君、折角なら猫ちゃんで切っておけば良かったのに、豪星君みたいに初心なペースだと、その内魔法使いになっちゃうよー?…いってぇ!!」

「ふざけんな!高校生の内は清い関係でいろって、自分で言ったくせに!」

「えー?あれはどっちかっていうと、あの場の収拾の為に言っただけだしなぁ、豪星君がしたいっていうんなら、僕、別に止めないし、相手がいる内にじゃんじゃんすれば?」

「…こ、この…っ!」

「あ、それに、あんなイケメンで筆下ろすとか、中々出来ないよ?やったね豪星君!パパ応援して…いだだだだ!!」

減らない口に等々、手まで出動する羽目になった。

水分の足りていない、カサカサで皮ばかり伸びる父親の頬を片手で思い切り掴んで、引っ張る。

「息子で面白がるなよ!」と、耳元で怒鳴ってから、わざと、音が鳴る勢いで手を離した。

荒い足取りで立ち上がると、赤くなった頬を痛そうに押さえていた父親が「どうしたの?」と、呑気に尋ねてきた。

「もう寝る!」と、乱暴に答えると、背中の方でタバコに火をつける音がした。益々腹立たしい!

「はいはーい、おやすみー、疲れてるだろうからよく休むんだよ?…って、もう聞いてないか」

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