「俺、大事にされてるなって!」
「はい?」
「だって、勢いに任せてしたくないだなんて、大切にされてないと出てこないよねそんな発想!」
いや、出てくるんじゃないだろうか。やっぱりこの人、過去にどんな付き合い方してたんだ。
…いやいや、想像しない事にしよう。分かった所で三文の徳にもなるまい。
というか、若干捉え方がねつ造されてない?気のせい?
猫汰の方はといえば、何時も通り想像たくましく、ああだこうだと、いかに自分が大事にされているかをとくと説いている。
それがまるで、二人の関係性の真意だと言わんばかりに膨らませてくるので、相変わらず、このひとの思考回路は凄いなぁと、他人事のように感心してしまった。
「俺、恋人にこんなに大事にして貰ったの初めてかも!」
「そうなんですか…」
「うん!だから、すっごく嬉しいかも!という訳で、俺、ちゃんと卒業まで待つからね!」
おっと、ちゃっかり期間が短くなってるぞ。卒業以降は待てないのか。
うーん…。ていうか、卒業しても、俺、この人と付き合ってるのか…?
「楽しみだね、ダーリン」
「……うーん」
さっさと話題を切り上げて、自分の弁当を取り出した猫汰を横から見つめる。
なんとなく、この人と自分が、卒業後も、それからも、隣に居る所を想像しようとして、…当たり前だが、出来なかった。
そんな曖昧な未来を、楽しみだと猫汰は言うので、彼は恐らく、自分なりに想像が出来ているのだろう。
お互いの想像が合致しない、それがこの先何かの形で浮彫になったら、自分達はどうなっていくのだろうか。
……それこそ想像がつかないな。
まあいいや、ゆっくり考えよう。
とりあえず、卒業までは貞操の心配がなくなったみたいだしね。それだけは、心強い事に変わりない。
駅で猫汰と別れ、疲れた足を引きずりとぼとぼ帰路につくと、丁度、アパートの外で煙草を吸っていたらしい父親と鉢合わせた。
吸っていた煙草を携帯用の灰皿に潰し入れて、空いた両手を二つ使い「おかえりー」とゆるく手を振ってくる。
それから、すかさず「ごうせいくーん、お土産はー?」と、旅の成果を強請られた。
無言で親に近づき、ん、と、持っていた袋を付きだす。父親の目が、期待に煌めくのが見えた。
「練り物買ってきた、ふかして食べるやつ、あと、お酒」
「うわー!ありがとう!」
豪星から手渡された袋を掴んで、中を物色し始めた父親が、それを大げさに掲げて「早速飲む!」と、喜色い声を上げた。
いそいそと部屋に戻っていく背中について、豪星も部屋に戻る。
ゲージを見ると、次郎はもう眠っていて、すぅすぅと、愛らしい寝息を立てていた。
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