かき氷では腹もちにならなかったお陰か、あっという間に夕餉を平らげてしまった。

食べ終えて直ぐ、後ろの畳に行儀悪く倒れ込んで至福を堪能する。

ああ、美味しかった、今日食べた物、どれも全部美味しかった。

旅先の疲労を孕んだ気だるさの中、猫汰が「あ」と小さく声を上げる。

「ごめんね、お風呂先に入っていい?」

「え?ああ、どうぞどうぞ」

三つ返事で頷くと、猫汰が早速風呂の準備に取り掛かった。

部屋には内風呂があって、先ほど覗いてみたが、とても内装が凝っている。豪星も、次に入るのが楽しみだった。

ひとりきりで暇になっている内に、冷蔵庫や、猫汰が持って行った備え付けの浴衣などを物色していると、ほどなくして、猫汰がほんのり、赤味をさした顔で戻ってきた。

丁度、浴衣を広げていた豪星に向かって、へらりと笑い「お風呂あいたよー」と、首にかけたタオルをあげてみせる。

はあいと頷き、豪星も、適当に畳んだ浴衣と自分のタオルを持って風呂に入った。

湯に足と身体をつけると、じわっと、熱が頭の上にまで昇っていく。

ふう、と、知れず息を吐いた。心地が良いとはまさにこの事だ。

良い香りのする木の湯船に背をつけると、若干瞼が落ちそうになった。

気持ちが良すぎて眠ってしまいそうだ。これは長居をすると不味いかもしれない。

名残惜しいがそろそろ退散しようと、さっさと身体を洗って、もう一度湯につかり身体を温めた後風呂を出た。

脱衣所兼洗面所で、もたもたしながら着物を着込んでいく。

なんとか形になった浴衣姿に、タオルをかけて部屋に戻ると、既に布団が二組敷かれていた。

どうやら、豪星が風呂に入っている間に準備されていたようだ。しかし、何時の間に電気を消したのか、部屋の中が薄暗かった。

猫汰といえば、何をするでもなく、布団を背に、じっと、部屋の外を眺めていた。

その背に近付いて声をかける。

「猫汰さん、お風呂あがりましたよ」

「………」

「部屋、暗いですね?もう寝ます?」

「………」

「…猫汰さん?」

猫汰の傍に座ると、背を向けたまま黙り込んでいた猫汰が、ふと振り返って豪星を見つめた。

夜目にも分かるほど、彼の目がうるんでいる。

どうしたんだろう。体調でも悪くなってしまったのだろうか、と、気遣いに声を出そうとした、瞬間。

「だいすき」

え?と、声が出る前に口を塞がれた。大変柔らかい感触が、何度も何度も押し付けられ、やがて食まれる。

その感触の正体に気付かぬうちに、離れた猫汰に突然、思い切り良く肩を押された。

上に覆いかぶさってきた猫汰に、再び唇を食まれ、また、え?と呟き損ねる。

その内、息が苦しくなって、猫汰の胸をどんと叩いた。

は、と息を零しながら顔を引いた猫汰が、艶めかしい目つきで豪星を見下ろす。

猫汰の口から、透明なしずくが、つ、と垂れたとき、…あれ?と、頭が警鐘を鳴らし始めた。

まって。ねぇまって。

俺、いま、キスされてない?初めてだったんだけど。

いやいやいや、それよりも、俺、押し倒されてる?

……えぇええぇえええ!?ちょっと待って!!いきなりなに!?

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