「…あの、今日、ありがとね、急に旅行に誘ってどうかなって、実は思ってたんだけど、だっ…豪星君と一緒にいっぱい遊べて、俺、今日すっごく楽しかった」

「いや、…俺のほうこそ」

恥ずかしそうに語る猫汰に、気の利く返事を咄嗟に思いつくことが出来なくて、少し考えた後、素直な言葉を選ぶ事にした。

「俺、実を言うと、あんまり旅行とかした事なかったんです、だから、どんな風になるかも分かってなかったんですけど、…すっごく楽しかったです、きっと猫汰さんのお陰ですね」

かたん、と、猫汰が持っていたスプーンを机に落とした。

しかし、猫汰はぼんやりとしたまま、スプーンを持っていたままの形で微動だにしない。

「わ!大丈夫ですか、はい、…あ、シロップがついちゃった」

スプーンを拾った豪星の腕に、甘い白密が零れて線を作った。

それを舐めとる豪星の舌と腕に、不意に、熱を帯びた視線が這ってくる。

「…豪星君、もう、良い時間だね」

「え?…あ、ほんとですね」

「そろそろ、旅館に行こうか」





行きで降りた電車に再び乗り込み、二駅走ってまた降りてから、歩いて5分程の距離に建てられた、こじんまりとした、とても雰囲気の良い建物が本日の宿泊先だった。

きょろきょろしながら旅館のたたずまいを堪能していた豪星の傍に、着物を着た女性がさっと近づいてくる。

猫汰が「予約していた神崎です」と告げると、着物を着た女性が、大変愛想の良い笑顔で「ようこそ、お荷物お持ち致します」と言って、荷物を預かると、二人の前を案内のため先導し始めた。

「お食事は何時頃お持ち致しましょうか?」

「一時間くらいしたらお願いします、それくらいでいいよね?豪星君」

「あ、はい」

「畏まりました」

入口から少し歩いて、角を曲がったところにある部屋の襖を、女性が開ける。

中は10畳ほどの和室になっていて。開けた窓から見える庭の景色がとてもきれいだった。

入口に鍵がなくて吃驚したが、誰も気に留めていないので、そういう仕組みなのだろう。

貴重品だけ預かってもらい、あとの荷物を中に入れ、部屋の説明を大体受けると、女性は「ごゆっくり」と会釈して去って行った。

女性の姿が無くなると、豪星は真っ先に「良いお部屋ですね」と声を上げた。

昼間とは別のテンションが上がった豪星を、じっと、猫汰が隣で見つめていた。

暫く、飽きない部屋の散策や、ちょっと外に出て、その感想などを喋り合っていると、こつこつ、襖を叩く音が聞こえた。

「お食事をお持ちしました」と、中居の声が聞こえてくる。はしゃいでいる間に、とっくに一時間が過ぎていたらしい。

猫汰が返事をすると、襖の戸がすらりと開いて、先ほどの女性が御膳を持って現れた。

料理が机に並べられ、その一つに火が灯る。全体像の完成した、彩の美しい料理を上から眺めながら、豪星は手を合わせて「きれい」と呟いた。

「美味しいねぇ」

「はい!今日食べたもの、全部美味しいです!」

「うん、ダーリンが嬉しいと俺も嬉しい」

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