たくさん歩いた所為で、ふくらはぎが若干重くなってきた頃合い、豪星と猫汰は和洋が折衷した喫茶店、その店先に吊り下げられた、気の早い「氷」の字に惹かれ、中に座って休憩することにした。
春にしては暑い外から、気温が何度か落ちた店内に入り込む。
重圧感があるけれど、落ち着きもある、独特の雰囲気がおりた店だった。
お互い対面になるように座ると、水と手拭きを持ってきてくれた店員に、注文が決まるまで待ってもらえるように頼む。
二枚あったメニューを二人で手に取り、目でなぞりながら、やがてお互い頷き合うと、猫汰が手を上げて「すみませーん!」と、向こうで待機していた店員に大きく手を振った。
「俺、あったかい珈琲と、ミルクのかき氷ください、豪星君は?」
「俺は…レモンソーダと、抹茶の金時下さい」
二人の注文を受けると、店員は軽く会釈をしてから、メニューを手に取り去って行った。
歩き続けていた疲労からか、お互い会話も少なく、文字通り、ぼんやりと椅子の上で休憩していた。
言葉はなくとも、不思議と気まずく無い、のんびりとした気分だ。
それから直ぐ、注文した飲み物とかき氷を持った店員が二人の元へ戻ってきた。
4種類の品の名前を次々と口に出して、注文主を確認しながら、ひとつずつそれらを手から机に移動させていく。
全部が机の上に乗ると、「ごゆっくりどうぞ」と言って、店員はまた向こう側へ去って行った。
紙に包まれたスプーンを剥がして手に取り、思い思いに「いただきます」を呟く。
スプーンの丸先を、早速かき氷に沈めると、しゃく、と、大変涼しい音がした。あ、と口を開けて一気に頬張る。
抹茶と、濃い甘味を含んだあんこ、氷のふわりとした食感。更に、冷たい刺激が舌先からぐっと奥へ迫ってきた。
ああ、つめたくて美味しい。
「おいしいねー」
「はい、つめたいけど、美味しいです」
「うはー、俺、ミルクのかき氷大好きなんだよね、あまーい」
「俺は抹茶金時の、あんこが好きです、おいしい」
かき氷を二人で、ひたすら褒めちぎっていると、突然、机の向こうからシャッター音が聞こえた。
目を丸くさせている豪星の前で、猫汰が楽しそうにスマホをふって見せる。また、写真を撮っていたようだ。
「かき氷を食べてる豪星君の写真、もらい!へへへ、豪星君の写真がいっぱい!しあわせー」
見えないお花を飛ばしている猫汰に「もっと撮らせてね!」と強請られる。
別に、自分の写真など撮られる分には何も問題は無い。「お安いごようです」と、頷いておいた。
猫汰の頼んだ珈琲が半分くらいになった時、それまで話していた会話のオチがついたと共に、ふと、猫汰が口をどもらせた。
何か言いたげだ。心なしか、頬が少しずつ赤色に染まっているような。
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