「………」

…なんだあれ。

じぶんちの扉の前で、猫汰がうつ伏せの状態で締め上げられていた。その背に乗り、思い切りもがいている猫汰を押さえつけている中年の男は…。

「離せてめぇぇえええっ!!!」

「だーかーら、何でウチの鍵持っててウチの扉開けようとしてたのか教えてくれたら離すって言ってるでしょ?」

「お前には関係ねぇよ死ね!つうか退けよ!」

「うーん、キリがないな……おや?ごうせいくーん、おかえりー」

「あ!?ひとの恋人気安くよんでんじゃねぇよ!…って、え?」

何時もよりも3トーンくらい低い声で唸っていた猫汰が、一瞬、電源を切ったかのように大人しくなった後、何処に隠してたのか分からない力で背の上に乗っていた人物を起き上り様に振り落した。

振り落された人物のぎゃ!という間抜けな悲鳴が聞こえるか聞こえないかのうちに、猫汰がイケている顔を涙で粉々に粉砕したままこちらに迫ってくる。

「だぁりぃいいいいぃいん!!!」

「ひぃっ」と、豪星も悲鳴上げて後ずさったが、時既に遅く、前からタックルをしかけてきた猫汰に思い切り良く拘束されてしまった。痛く無いけど、何か執念じみた気配を感じて怖い。

「おれ、おれぇ…」

猫汰が豪星にしがみつきながら身も蓋も無く泣きわめく。勢いに飲まれて色々見失っていたが、段々音量を増していく泣き声にはっと我に返り、そっと猫汰の腕を掴んだ。

「あの!暫く勝手に留守にしててすみませんでした、その、実は…」

「分かってる!」

「え」

「分かってるよダーリン、言わなくても分かってるから!―――俺の身体が目当てだったんだよね!?」

おっと。またなにか言い出したぞこの人。

「ダーリンの気持ちに気付かないで、俺いっぱいめんどくさい事言っちゃって…引いたんだよね!?ね!?だから俺捨てられたんだよね!?」

「………」

「おれ、おれぇ、もうめんどくさいことぜったいに言わないから!ダーリンのセフレでいいから!俺の身体だけが目当てでもぜんっぜん大丈夫だから!だから!オレのことすてないでぇえぇえええ!!」

………、すでにめんどく…げふんげふん。

「じゃなくて、猫汰さん、落ち着いて下さい、俺が出て行ったのはですね、今後の俺たちの関係について」

「からだ!?」

「ちがう」

「じゃあなにぃ…」

「…あの、色々考えてきたんです、だから、今から俺が話す事しっかり聞いてください、それで、気に障ったようでしたら、俺を遠慮なくぶん殴って下さい」

「……うん?」

「…えっと」

何故ここ暫く家を留守にして、そこから時間をかけて戻ってきたのか、その理由と経緯と、発端からの誤解と隠ぺいを手短に打ち明ける。猫汰は時折、吃驚したり、きょとんとしたりしながら、静かに話を聞き入っていた。

「だから、俺が貴方と付き合ったのは生活の為だったんです、でも、冗談抜きで、貴方が俺の事真剣に好きになってくれてるみたいだから、申し訳なくって…色々隠しててすみませんでした、気が済むまで殴って下さい」

すっと、お辞儀の形で頭を差し出すが、猫汰は一向に手を出してこなかった。代わりに「ねえ」と頭上に声がかかる。

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