陽がゆっくりと落ちる中、何度も乗せてもらった軽トラックが刈り終わった田園地帯を横切っていく。それを横目でぼんやり流し見ていると、自然に溜息が出た。

枯れた稲の匂いが段々と傍から離れていく、それが豪星の気持ちを名残惜しい物にさせるのだ。短かったが、本当に良い奉仕先だったと思う。

「…龍児君、こっちまで見送りにきませんでしたね」

「昨日で腹くくったんだろ、そっとしとけ」

「はい」

豪星が帰る頃、龍児は一度だけ豪星を見送りに姿を見せたが、手を少しだけ振って、それから直ぐ家屋に戻って行ってしまった。

それを寂しいと言えば着いてきてくれたかもしれないが、帰り際、もう一度手を振った瞬間泣いてしまうかもしれない。あのような事が二度もあれば流石に可哀想だし、決意も揺らぐ。須藤の言う通りそっとしておくのが賢明だろう。

特に身の無い会話を20分程交わした後、トラックが須藤と初めに出会った公園に辿り着いた。駐車ランプを点けた須藤が「ここらでいいのか?」と豪星に尋ねるので、頷きながらシートベルトを外した。サイドブレーキの間に挟まっていた次郎をそっと引っこ抜いて荷物と一緒に抱える。

「見送りまでしてもらって、ほんとうに有難う御座いました」

「おう」

「あと、短い間でしたが、大変お世話になりました」

「…おう」

ふっと、顔に寂しさを湧かせた須藤が、自分のシートベルトを外して豪星の後を追った。それから、ぐっと肩を掴んで「またあそびにこいよ」と力強く言い放つ。

「須藤さんさえ良ければ」

「言ったな?約束だぞ?あんな様子じゃ龍児も心配だからな、月に一回は来いよ!」

「え?ちょっと多く無いですか?」

「男なら二言を言うな」

「いえ、どっちかっていうと後出しじゃんけんですよね?」

「やかましい!とりあえずまた来いよ!来なかったら何回でも電話してやるからな!」

「は、はぁ、まあ俺は構わないのでどうぞ」

「おう!じゃあまたな!」

須藤が思い切り良く運転席に戻り、車を発進させた。途中何度も何度も停止して、クラクションを鳴らしながら「遊びにこいよー!ぜったいだぞー!」と念を押してくる。もう絶対に止まれない所までそれを繰り返してから、漸くトラックが去って行った。

車が消え去る最後まで手を振ってから、一瞬だけかくんと肩を落とした。皆が大げさに寂しがってくれるので自覚していなかったが、自分は自分なりに悲しいみたいだ。

それを誤魔化すように、次郎を胸に抱えてすんと鼻を鳴らす、更に誤魔化すように携帯を取り出して、父親からの着信履歴を確認した。公衆電話からの着信は掛け直せないが、見ているだけで不思議と気分が和らいだ。

「…父さん、今日戻るって言ってたけど本当にいるかな?」

「きゅーん」

公園から歩いて数分もしない所にある我が家に向かいながら次郎に語りかける。そこでふと、そういえば、父親に猫汰の事を伝え忘れていたのを思い出した。

もし猫汰が今でもアパートに潜り込んでいたら、双方の事情を知っているのは豪星だけなのでお互い混乱してしまうんじゃないか。

けどまあ、その時はその時か、子供でもあるまいし、豪星が説明などしなくてもお互いそれなりに察して事情の説明くらいはするかと――――扉の前までは、気軽に考えていた。

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