「でしょ?見てて自分でもできそうになったら龍児君もやってみようよ」
「…うん、やる」
「約束だよ?」
「うん」
「あはは、嬉しい、龍児君と遊んでるとなんかいいな、弟が出来たみたいで楽しい、俺、兄弟とゲームするのちょっと憧れてたんだよね」
「………おれもっ」
龍児が何かを言いかける前に、階下から「そろそろ行くぞー!」と声がかかった。熱中している間に、どうやら現実の制限時間も過ぎたらしい。
はぁいと返事を返し、セーブをしてから電源を切って立ち上がる。一階に龍児と共に戻ると、須藤と沙世が玄関に立って靴をはいていた。
「さー今からちょっと歩くぞー」
「おモチ投げは袋がいるから今の内に持っておきなさいね、はい、お賽銭も」
「あ、すみません」
「おい龍児、小銭もっとしっかりポケットに入れろ、落としてもしらねぇぞ、ほら、豪星を見習え」
「ん」
「入ってねぇって、よくみろ全く」
龍児のポケットに手を突っ込んでお金を入れ直させる須藤、豪星に袋を渡す沙世、仏頂面で靴をはく龍児、ソレを眺める自分。
――この光景が家族で無い事を、豪星はふと不思議に思った。
「あんこを佐藤さんのところから頂いたから、帰ったらおしる粉を作りましょうね」
「磯べもいいなー、龍児、お前モチだけはゆっくり食えよ?喉に詰まったらシャレにならねぇからな」
「おう」
「よしよし約束だぞー?ほら、豪星も、いくぞー」
「…はーい」
さしずめ、龍児が弟なら、須藤が父で、沙世が母か。
この家のような一件屋に生まれて、兄弟が居て、母も居て、引っ越しもせずに町内の祭りの回数を当たり前のように覚えている。
そんな人生を歩く可能性も、もしかしたら豪星にも、生まれる前にはあったのかもしれない。
歩けなかったことをもう悲しんではいないけれど、それでも。それを今日、よりにもよってこの日に思うだなんて、なんて皮肉な事だろうか。
不意に俯いた豪星に気付いた龍児が振り返って「どうした」と尋ねてくる。顔を上げて豪星は呟いた。「なんでもないよ」と。
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