暫く須藤とやり取りをしている内に、ぐいぐいとシャツの脇を龍児に引っ張られた。中に入るぞと言われ、須藤も賛同する。三人で中に入ると居間から出てきた沙世が「おかえりなさい」と出迎えてくれた。

「お前が来る前に龍児が全部食っちまわないように我慢させてたんだ、一緒に食うぞ」

居間の戸を開けると机の上に所狭しとご馳走が並べられていた。桶の寿司に揚げ物に分厚い肉。思わず、わぁと感嘆の声が上がった。

何時の間にか姿を消していた沙世が背後から汁物の入った椀を四つ、盆に乗せ「さあ食べましょう」と全員に座るよう促してきた。

机の端を貰って腰をつけると、お礼を言って沙世から椀を受け取り、皆で手を合わせた。目の前に置かれた真っ直ぐなエビフライを箸で掴み口に運ぶ。

衣の中には海老の身がぎっしりと詰まっていて、噛むとはじける食感がした。零れる汁は海老の場合、なんというのだろうか。

次に寿司に箸を伸ばそうとして、見た光景にぴたりと手が止まる。隣に座った龍児が丁度寿司の三列目を食べ終えていたのだ。

ちょっと気になっていたネタが根こそぎなくなっている、かと思いきや、机の傍から須藤が追加の桶を出してきた。

ちらりと覗きこむと、まだひと桶待機しているのに気づいた。対龍児用の量に、相変わらずだな声無く笑う。

須藤も、大体三列程寿司を食べ終えると、居間に置かれたストーブの上に何かを置いて焼き始めた。ちりちりと焦げる音と共に芳しい匂いが居間に立ち込める。

そそくさと、匂いにつられた龍児がストーブに近づいた。

「こら龍児、先に食うんじゃねぇって」

須藤が注意をするも、龍児は聞かず、ぺろりとストーブの上の物をひとつ摘まんで口に入れてしまった。もぐもぐと、何度も口を動かしている。

あーあーと、嘆く須藤が立ち上がり、ストーブの上に置いておいた物を机に下ろした。芳しい匂いを上らせるソレは炙ったあたりめだ。

その横に須藤が追加のビールを置いてプルタブを空けた。あたりめを食べ終えた龍児が再び食事を口に詰め込むのを見て「あんまり食い過ぎるなよ」と釘を刺す。

「この後モチが入るくらいはあけておけよ、…まー、お前なら大丈夫かもしれないけどよ」

「おモチがあるんですか?」

正月でもないのに珍しいな、という考えが顔に出ていたのか、須藤が「この時期じゃ身近にねぇか」と豪星に訪ねた。こくり、と頷く。

「ここ等の町だと年に2、3回はモチ貰うんだよ、町内の祭りが複数あってその時々でモチつくんだな、それで、正月の時みたいに神社でモチを投げるんだ、お前は正月の元旦いなかったから拾わなかったけどよー」

「神社って、ずっと前に行ったあそこですか?」

「いや、あそことはまた別だな、今回は社が違う、ま、今日は俺の当番管轄じゃねぇから楽でいーよ」

須藤が言うには、季節によって祭りは度々同所や別所で行い、規模は大きかったり小さかったりするそうだ。今回は中の中くらい、と説明されるが、比較対象が無いので豪星にはさっぱりだ。

「もう一時間位後に始まるからな、それまでお前等で遊んでろ」

「あ、はい、…そうだ龍児君、今日俺ゲーム持ってきたんだ、今から遊ばない?」

それまで、海老を尻尾ごとひたすら齧っていた龍児が、がばり!と顔を上げて豪星を見た。口がパンパンだったので「飲み込んでから後で来てね」といえば、慌てて口の中の物を飲み込み始めた。

先に二階の部屋に向かい、置きっぱなしになっているハード機の準備をしていると、画面をつけた辺りでばたばたと階段から忙しない音が聞こえた。相手の嬉しさが音で分かるのがなんとなく面白い。

が!と部屋の戸を開けた龍児を、ちょいちょいと手招き隣に座らせる。早速、二つ目のコントローラを掴もうとした龍児に、待ったをかけた。

「今日これ二つ使わないよ」

「………?」

「今日は、あーるぴーじーです」

ネタばらしをすると、龍児の眉間にがつんと皺が寄った。想像通り過ぎる反応に苦笑が漏れる。

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