暫く事情があるから家に呼べないと言われていた須藤の家から久しぶりに連絡が入った。

勝手に来いと言ったり来るなといったり、悪かったなととりあえず謝られてから、次に来てほしい日にちを指定された。

ちょっとその日は開けたい日にちだったのでずらして貰いたかったのだが、どうしてもこの日に、なんなら2、3時間だけでもいいからと何故か強く懇願され、それじゃあ夕方になる前までなら…と、結局豪星の方が折れた。

その日になると、何時もはパチンコにでも遊びに行っている父親が出掛け際の豪星を呼び止めてきた。

ひらひらと手を振って、「いってらっしゃい」と見送られる。そして、「夕方には帰ってくるんだよ」とさりげなく付け加えた。

豪星は頷き、早速何時もの待ち合わせ場所に向かった。時間よりも早く待機していた須藤に回収され、車に乗り込むと、何故か須藤のテンションが何時もより高い事に気付く。

何か良い事でもあったんですか?と聞けば、へらっと相好を崩した須藤が「まあな」と綻んだ顔で頷いた。本当に嬉しそうだ。宝くじでも当たったんだろうか。

車が敷地内に辿り着くと、扉を開けて外に出る―――前に、わ!と身体が後ろに倒れた。前方には、扉を開けた瞬間飛びついてきたらしい龍児が「ごうせい!」と、叫び、歯を見せて笑っている。

無理な体勢に起き上がれず「苦しいよー」と小さく抗議してみるが、龍児は一向に退く気配を見せなかった。

「豪星!俺、おれな!俺!がっこう――」

「ん?」

「龍児ストップ!」

「んぐっ」

豪星達の格好を見かねたらしい須藤が苦笑しながら「その辺にしとけ」と、背後から龍児を引きずり落とした。その手に何かが握られている事に気付く。

「龍児君、それなに?」

龍児が利き手に掴んでいたのは、1メートルくらいの細い棒に薄紙で作られた花が張られたものだった。それを、ぶんぶんと振って見せてから、「まつり」とだけ答える。

ちょっと意味が分からなかった説明を須藤が引き継ぐ。

「これな、町内の祭りの日に軒先で飾る奴なんだよ、龍児が気にいっちまったみたいでウチの分を引っこ抜いちまったけど」

適度に長い棒を好むとは。流石龍児、感性が小学生だ。

「という事は、今日はお祭りの日なんですか?」

「そうそう、そうなんだよ」

「ああ、それで今日どうしてもって言ってくれたんですね」

「…あー、うーん、まぁそれもあるかな?」

「他に何かあるんですか?」

「いや、うーん、そんなことねぇよ?」

「うん?」

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