父親がクローゼットから取り出した豪星の写真を「ぎょえええええ!!」とか「びぇえええええ!!」とか、奇声を上げて堪能した後、猫汰はちゃっかりそれも頂き「良い夢が見れる内に帰る!!」と、デジャブを起こす台詞を吐いて扉へ向かった。
その際「まだ写真あるけど、どう?」と、父親が遠回しに釘を刺す。意図を得た猫汰が「言わない言わない!絶対言わない!」と、思い切り頷いて、今度こそ楽しそうに帰って行った。
猫汰が帰るのを見送って直ぐ、父親が溜息をつく。
「あれは猫ちゃん、その内ゼッタイに言うなぁ」
「そう思うならなんで毎回口止めするの?」
父親が彼に何故口止めをするのか、その理由自体を知らないのだが…。それでも、猫汰と父親のやりとりを見ていると、まるで水に木戸を立てるようだ。
そのことについて、父親はあっさり「時間稼ぎだよ」と言った。
「せめてあと一年くらいは此処に居たいからさ」
「なんで?」
「なんでって、今の学校転校したら君が可哀想だろ」
父親が何気なく言ったであろう言葉に面食らってしまった。身体が硬直して、数秒、親の顔を惚けながら見つめてしまう。ふらりと揺れ「そんな事考えてたの?」と、本音が口から滑り落ちた。
「えー?考えてるよ、…今までどうしてもって時に無理矢理引っ越しさせちゃったけど、今みたいにまぁなんとか落ち着いてる状態なら、同じ学校でのんびりしてほしいからさ」
無理矢理だって経験だけど、過ぎると大概になるしねと、へらへら笑う父親からすっと顔を逸らす。
「…だから、そういう事は、中学の俺に言えよ」
聞こえないように呟いた豪星に、父親が不思議そうに「どうしたの?」と尋ねてくる。
「…何でもない、それより、また引っ越しする予定なの?」
「うん、君が卒業する位にね」
それまでに写真を全部取られないといいなー、と、写真が数枚抜き取られた、然程厚くも無い簡易なアルバムを眺めて苦笑する。
その内、それを閉じると、父親は自分の懐からおもむろに古ぼけた手帳を取り出した。背表紙の内側をぺらりと捲る。
「…まぁ、これとあれさえあれば、僕は別に良いんだけどね」
背表紙の内側には今よりも若い父親と、肩車をして貰っている小さな豪星と。亡くなった母親が映っていた。
「…ねぇ、猫汰さんのお兄さんってさ」
彼と出会った時、気にする余裕が無かった為流していたが、ゆったりと微笑む母の顔を見ていたらなんとなく口に出た。
豪星の言葉の意味を察した父親が、寂し気に笑う。
「うん、―――母さんと同じ名前だね」
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