「俺が、おれが……っ」

いいから落ち着いて話せと須藤が根気よく龍児を励ます。すると、一度大きく震えた後、龍児が顔を上げて背後を振り返った。涙でぐしゃぐしゃになった顔は、須藤ではなく豪星に向けられている。

「俺が、おれ…俺がおやつ食べたから、俺が、ひっくごうせいがぁ…」

「…何の話だ」

「何の話でしょう」

一連の流れの経緯と本意を知っているのは彼だけだ。それなのに、漸く切り出された本題の意味が二人分の頭でも理解できない。

「もうちょっとゆっくり話せ」と須藤が催促すれば、膝を抱える形になった龍児が、何度も瞼を擦りながら頷いた。

「おれ、俺がごーせぃのおやつ、た、食べたから、ごうせい、おこって、おれのせいで、謝らなかったから」

「あ?ああ、そういやそんな話してたな、なんだお前、そんなことで」

泣いたのか?と、続く前に、龍児の嗚咽が力を増した。びぇええ!と、文字通り癇癪を起した子供のような泣き声だ。

付き合いが短いとはいえ、龍児が感情的な表現を思い切り出したのはこれが初めてではないだろうか。

「あ、あやまらなかったから!だから、ごーせ、怒って、出てくって!」

………。

あれ、おかしいな。色々合ってるんだけど何か決定的なものが間違ってる。

「さっきの話っぽいですけど、龍児君何処から聞いてて何を聞き間違えたんでしょう…」

「さぁな…けどとにかく、お前が出ていくのがショックで泣いてるのは間違いねぇな」

「まぁ、そうなんですかね」

何もそんな事で。というのが正直な所なのだが、龍児を見ていると一大事らしい。

短期間で凄くなついてくれたなという感覚はあったがまさかここまでとは。

「あ!龍児待て!」

明後日の方向を向いて考え事をしていた豪星の隣で須藤が再び声を上げた。意識を戻して龍児を見ようとしたが、部屋から忽然と姿を消している事に気付く。

代わりに、須藤が部屋の物置に近づいて戸を必至に開けようとしている。どうやら再び引きこもり、中からまた何かで戸を固定しているらしい。

なるほど、龍児は泣きたい時に閉じこもる癖があるのか。新しい一面に場違いながら新鮮さを覚えてしまう。

「また引きこもっちゃいましたね、どうしましょう」

事の原因(らしい)豪星が出てこいと言っても無駄骨だろう。須藤に匙を投げると、物置の戸と豪星の顔を見比べた後「よし、まかせろ」と肩を鳴らした。

一度息を大きく吸い込み、吐いて、もう一度吸う。

「おおい龍児!豪星が荷物纏めて出て行こうとしてるぞ!さよならも言わずに行かせていいのかぁあ!!」

おいおい。凄い誘導の仕方だな。どう考えても展開的に無理があるだろう。

「ごうせぇえええええええ!!!」

おっと出てきたぞ。ちょろいな龍児君。

押し入れから血相を変えて出てきた龍児は、豪星の姿を見つけるなり思い切りタックルをかましてきた。贓物が瞬時にシャッフルする感覚にぐえ!と呻くが、その声は龍児の大絶叫によってかき消された。

びぇええぇええぇえええええええ!!と、漫画のように泣き喚く龍児がぎゅうぎゅうと豪星の腰に力を入れる。彼の普段有り余っている体力と力が豪星の腹を思い切り締め上げるので、胃でも出てきそうな程苦しかった。

「ちょ、龍児君落ち着いて!」

「お前のおやつ食べたの謝るから!!あやまらなかったの悪かったから!あやまるからぁ!うわぁああぁあぁああ!」

「りゅうじく」

「ごめんなさいごめんなさい!出てかないでくれよぉ!うわぁあんごぉせぇえええ!!」

「ど、どうしよう…ってえぇええ!?なんで親父さんも泣いてるんですか!?」

「なんか、もらっちまって…っ」

えー!?涙もろいにも程があるんじゃない!?

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