此処二週間くらい、ひたすら誰かに会ったり行ったり来たりしまくってくったくたに疲れた。気づけば年始もほとんど終わって日付が4日になっている。何時になくあわただしい年末年始だった。

冬休みが全部終わる前に、少しは何もない休日が確保出来て良かった。明日は必要最低限のこと以外はさぼってごろ寝しながら次郎と戯れよう。

「ただいまー」と、くたびれた声で家に戻ると、テレビを見ていた父親が顔だけで振り返った。頬がほんのり染まっている。また飲んでいたのだろう。

「おかえりー豪星君、お正月のお呼ばれどうだった?」

「ゲームしたり昔の遊び教えて貰ったりして結構楽しかったよ、おせちも初めて手作りの奴食べさせて貰ったけどすごく美味しかった、おすそ分け貰ったからおつまみにする?」

「お!ありがとー!」

持っていたビニールの袋を机に置くと、父親が嬉しそうに床を叩いて袋に手をかけた。

袋に入ったタッパーを開け、中に入った田作りや煮豆、紅白蒲鉾などを指で摘まみ上げて口に運び、父親はしきりに美味い美味いと舌鼓を打った。

その脇で、豪星は持っていた別の袋の中身を取り出し始めた。片手でなんとか掴めるくらいの箱を床に下ろす。

「豪星君?何やってるの?」

「ゲームの準備」

「うん?なになに、珍しいね?」

まあねと短く答えて、粘着の劣化したテープを端から端へ引き剥がす。中には接続機器と、お目当ての古いゲーム機がしまい込んであった。

「お正月に遊びに行ったら向こうの人が俺にもお年玉くれてさ、友達が欲しがるから一緒にゲーム買いに行ったんだけど、見てたら俺も欲しくなって、ついでに買ってきたんだよ、ほらこれも」

「おー!なつかしい!」

買ってきたゲームを片手に乗せて見せると、父親が一層はしゃいだ声を上げた。目を細めて、ソレを懐かしそうに見つめる。

豪星が買ってきたのは昔大ヒットをかまし、売れに売れたRPGのゲームだった。豪星も昔、ブームが過ぎた頃に一度遊んでいる。

何時の間にかゲーム自体をやらなくなり、何度目かの引っ越しの時掃除ついでに売ってしまっていたのだが、それを今回買い戻してきたのだ。

巻かれたフィルムを適当に裂いて中身を取り出しゲーム機に入れる。起動音と、企業のロゴを眺めている内に、父親がいそいそと、酒とつまみを持って豪星の背後を陣取ってきた。

「久しぶりに見るとわくわくするよー」

「ゲームってさ、初めは父さんがやってて、その内俺が一緒にやり始めて、中学入ったくらいからどっちもやらなくなったよね」

「そうだったかな?」

「そうだったよ」

やっぱり、それほど覚えていないかな。別に、あの頃の事は覚えていてもいなくてももうどっちでも良いんだけれど。

なんて、冷静に思ってみても少し口惜しく感じるのは、未だに自分が自分だからだろう。

「ああでも、僕がゲームをやり始めた時から、ちっちゃい豪星君がいつも楽しそうに後ろから見てたのは覚えてるよ、今は逆だねー?」

「…あ、そうか、後ろで見てればいいのか」

丁度、主人公の名前を決めている時にふと思いついた。それから直ぐに浮かんだのは龍児の顔。

頑なにRPGゲームを拒み、一人じゃ出来ないとごねていたが、豪星が遊んでソレを後ろから見ていれば彼もそれなりに楽しめるのではないだろうか。

会えない時期に多少話が前後しても、その時々にこんな事があって、今こうなったんだよと説明してあげれば良い。実際、小さい時の豪星もそんな風に楽しめた覚えがある。今度遊びに行った時に早速試してみよう。

コントローラを持つ手を止め、物思いに耽っていた豪星に、父親が「どうしたの?」と尋ねてくる。なんでもないよと答えて再び名無しの主人公に向かった。

適当な名前でも良かったけれど、なんとなく、流れで「りゅうじ」とつけておく。父親に「りゅうじって誰?」と再び尋ねられ、「ともだち」と短く答えておいた。

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