「ありがと、ダーリン」
みるみる羞恥を上らせた豪星だったが、猫汰は全く予想だにしなかった言葉をかけてきた。え?と疑問符を飛ばす豪星に、へたりと、猫汰が眉を下げて見せる。
「はぐらかしてくれたんでしょ?」
「………」
会話の意図が頭に繋がらず数秒混乱したが、もう数秒経ってから、あ、と心の中で声を上げた。
そうだったそうだった。一瞬にしてはしゃぎすぎた所為で若干流しかけていた。
けれど、折角猫汰が持ち直したみたいなので、肯定も否定もしない事にする。
「…えーと、まぁ、一応楽しい日なんですから、暗くなってるのは良く無いと思います」
「…うん」
やっと、僅かに微笑んだ猫汰だったが、ひゅっと風が吹いた瞬間顔を顰めて大きくくしゃみをした。恥ずかしそうに目を逸らす猫汰の首元を見て、そういえば、先ほど渡しそびれた物を思い出す。
「猫汰さん、俺マフラー持ってるんですよ、今の格好寒そうですし、巻きましょうか?」
「へ?」
豪星の突然の提案に猫汰が素っ頓狂な声を上げた。そういえば主語も無く行き成りマフラーがどうとか、会話としておかしいな。
けれど、一応これは猫汰の為に持ってきた、いわゆるプレゼントというものなのだ。
出掛け際、父親が「クリスマスなんだしプレゼントくらい持っていきなよ?」と忠告し、そんな用意を全くしていなくて慌てていた所、これを持って行きなと渡されたのだ。
何でも、何処かの店の年末クジで当てたは良いが、使い道が無いので持て余していたそうだ。
鞄から取り出した白くてもこもこのマフラーは明らかに男には向かない風体だったが、猫汰ならば屹度着こなしてくれるだろう。
それに、マフラーも、あんな寂れたおっさんの首に巻かれるよりも、まばゆいイケメンに貰われた方が余程本望だろう。
「はい、メリークリスマス、これ、俺からのプレゼントって事で、…わ、やっぱり似合う、さすが猫汰さん、かっこいい」
「………」
もこもこのマフラーを首に巻き付けられた猫汰は、暫くの間きょとんと目をしばたたかせていたが、その内、もぎゅ!と、勢い良く顔をマフラーにうずめ、くるりと後ろを向いた。
「だ、だ、だ…ダーリンのばか…っ!」
「え?何か言いました?」
「何でも無い!」
「?」
何か聞こえた気がしたんだけど…。まあいいか。
46>>
<<
top