「何食べる?何食べたい?」

選択権を譲られたので、とりあえず紙の上に書かれたカタカナを眺めてみたが、半分程で目を逸らした。

全て子供の頃に習得している文字の筈なのに、何が書いてあるのかさっぱり分からない。一応解説も書いてあるけど、何がどうしてそうなっているのか、ちっとも想像がつかない。

「…すみません、何が何だか良く分からないので注文はお任せします」

主導権を猫汰に放り投げると、ソレをキャッチした彼が目を輝かせて「よしきた!」と大きくうなずいた。

す、と真剣な顔つきを浮かべ、暫くメニューを眺めた後、猫汰は丁度席の隣を通過していた女性店員に「おねーさん」と声をかけた。

片手にメニューを、もう片方の指で表面をなぞる。

「この、三のコースを二つと、別添えでパンとオリーブのピクルスつけて、あと食後に今日のデザートとシードルつけてくれる?」

「はい、畏まりました」

猫汰が口にする呪文を、店員は持っていたオーダー表に書きこみ、終わると踵を返してカウンター作りの厨房へと去って行った。暫くすると、別の店員が両手に皿を持ってこちらに向かって来る。

「こちら三のコースの、トマトとチェダーチーズをオイルと胡椒であえた前菜になります」

「あ、はい」

机の上に置かれた小皿の説明を受けた後、中身をひとくち、ぱくりと食んで、ほっと笑みを浮かべた。「おいしい」と、感嘆の息が出る。

それを食べきる直前くらいに、また皿を持った店員がこちらに向かってきた。丁度食べ終えた皿を片して次の皿の説明をしてくれる。店員が去った後、それも口に含んで、ほっこり顔をほころばせた。

「これもおいしい」

「ほんと?良かった」

「はい、なんだろう、おしゃれな味がする」

…自分で言っておいてなんだが、こんなに美味しい料理に対して随分貧相な感想が出たな。と、自分に突っ込んでいると、突然猫汰が机の余りにがん!と頭をぶつけた。吃驚して持っていたフォークを落としそうになる。

「…やっべ、今の感想の言い方、くっそ可愛い…!!」

「え?何か言いました?」

「ごめんちょっと待って、もうちょっとで落ち着く」

「はい?」

あれこれやり取りをしながら料理を平らげ、最後にデザートと飲み物が運ばれてきた。

デザートの方は焼き菓子とアイスの盛り合わせ、飲み物の方は、綺麗なグラスに入った、薄い黄色味を帯びた炭酸だった。

甘すぎないデザートを頬張りながら、くいっと炭酸を口にする。しゅわ、と、口の中で炭酸が淡く溶けた。こちらも甘すぎず、とても飲みやすい味わいだ。

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