クリスマスのデート先に指定されたのは、豪星が暮らすアパートよりもずっと遠くに点在する、町で一番大きな駅の裏口だった。

バスを使って約束の時間に約束の場所へ赴くと、人が行き交う中、既に猫汰がちょこんと花壇の縁に腰かけていた。

豪星が歩道を通って猫汰の方へ向かうと、こちらが声をかけるよりも先に、豪星の気配に気づいたらしい猫汰が向こうから「ダーリン!こっちこっち!」と手招いてくる。

軽く会釈をしながら、触れられる距離にまで歩みを進めると、途端、ぎゅ!と腕をとられた。

「ダーリン!今日は有難う!」

「いいえ、こちらこそ」

至近距離から見た今日の猫汰は、御洒落にとことん疎い豪星から見ても随分な気合いを感じさせた。余程楽しみにしていたのが、目で見て分かる具合だ。

しかし、身なりの為とはいえ曝け出された首元がとても寒そうだ。

そういえば、丁度良い物を持っていた事を思い出し鞄を漁ろうとしたが、その口に手をつけるよりも早く腕を引っ張られ、豪星の目論見は叶わなくなってしまった。

…まぁいいか。本人が気にしていないなら余計なお節介をしてもしょうがないし。

猫汰が豪星の腕を引いて向かったのは、駅から横に逸れた、奥道に入った場所にある木造の店だった。

立てかけた看板には英語でメニューが書かれ、中からは小気味の良い音が聞こえてくる。

若干気おくれした豪星とは反対に、猫汰は堂々と店の扉を開けて中に入って行った。

おずおず、豪星も続いて中に入ると、腰までの黒いエプロンをつけた店員が、すかさず二人に名前を尋ねてきた。

「7時に予約した神崎です」

「はい、神崎様ですね、お席こちらになりますのでどうぞ」

「行こう」と猫汰に誘われ、軽く緊張したままこくりと頷いた。案内された二人かけの椅子と机に座り、向かいに座る猫汰を見る。

息を潜めながら「俺、こういう大人っぽいお店に入ったの初めてです」と告白すれば、すかさず「ダーリンとまたはじめて!」と猫汰が感激の声を上げた。いやだから、その言い方ほんとやめて。

「そんなに身構えなくて大丈夫だよダーリン、平日はランチとかもやってる店だし、結構客層広いお店だよ?」

「そう…なんですか?」

何をどう、身構えなくてもいいのか今の説明では分からなくて、そっと目を伏せ曖昧な返事を返した。その時、傾いた豪星の視界にすっと猫汰が何かを見せてきた。

黒い表面に白い文字で幾つもカタカナが記載された、二つ降りの分厚い紙。恐らくメニューの用紙だろう。

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