「ところでダーリン、簿記ってもっと身近な所にもあるんだよ?何か分かる?」

「え?なんですか?」

「ほら、お小遣い帳とか家計簿」

「お小遣い帳?あれ簿記なんですか?」

「そう、お小遣い帳や家計簿みたいな単純な物を単式簿記っていうのね、ダーリンがこれから勉強するのは、複式簿記って言って…」

テキストを開いてもさっぱり意味が分からない豪星に、猫汰は先ほどから中々分かりやすく解説してくれる。これはそこそこ良い結果が望めそうだ。

うんうんと猫汰の解説に頷きながら、時折ノートにペンを走らせていると不意に頭上から視線を感じた。見上げると、猫汰がにこにことご機嫌な顔で豪星を見つめている。

「ダーリン飲み込み早いから教えるの楽しい!もー、歴代のかのじょ…げっふんげっふん!ええと、友達なんて教えてほしいとか言う癖にちっとも理解しないんだからさぁ」

「そうなんですか?俺は猫汰さんの教え方が分かりやすいんで助かってますけど…」

「もうやだー!褒めても何も出ないよー!!」

「事実です」

「なになに今日どうしたのー!?プレゼントはもう誕生日に貰ったよー!?」

嬉しそうに肩をばしばし叩いてから、きゃあきゃあ女子のように黄色い悲鳴を上げて身体を揺らしていたが、その内「そうだった!」と真剣な声を上げ始めた。どうしたんだろう。

「プレゼントで思い出した!!ダーリン、簿記の予定も良いけど!12月!12月の予定!」

「12月って何かありましたっけ?」

「なにいってるの!12月はクリスマスがあるでしょ!」

「…ああ」

そこまで囃し立てられる程縁がなかった行事なのでぱっと出てこなかった。

プレゼントはもう中学になってからもらわなくなったので、毎年、精々、父親と炬燵でチキンとコンビニのケーキを買って食べる位だ。全くもって、はしゃぐには縁遠い。

「おれ、好きな人とクリスマス過ごすのってはじめてなの、だからもう今からそわっそわ!もー嬉しくって!絶対空けておいてね!ね!」

「はぁ、分かりました」

「…あのね、ほんというとね、365日ぶんのいちにわざわざ会ってはしゃぐなんて馬鹿じゃね…じゃなくて、不思議だなぁって思ってたんだけど、みんな、こんな気持ちだったんだね、もう、俺、今なら全世界の恋人たちに同意出来るよ」

「はぁ、そうなんですか」

「それでねそれでね、大晦日になったら炬燵でお鍋食べて、日にち変わったら初詣いこう!ほら、ちょっと行った所にある有名な神社が…」

話を半分にして聞いてた間に、猫汰が話をクリスマスから晦日と正月に移動させていた。それをまた耳半分に聞きながら、豪星はスケジュール帳を取り出し、話題の出た日の部分に、きゅ、とまるをつけた。

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