光貴と男(本名は青川春弥と言うらしい)に「またきてね」と出入り口で見送られ、二人で漸く帰宅の道についた。

お互いの道が別れるまで10分くらいの距離、思い出したように春弥のファンだった事を根堀葉掘り猫汰に追及され始めたので、無難に「恋人が一番ですよ」と切り出しておくと直ぐに大人しくなった。

残りの5分くらいで自分が今どれだけ幸せかを語った後、猫汰は道を分かれて帰って行った。今日の仕事が終わったような気分で豪星も残りの帰り道を進んでいく。

アパートに辿り着くと、丁度次郎の散歩を終えて帰ってきたらしい父親が「おかえりー」とひらひら手を振ってきた。「ただいま」と手をポケットに突っ込んだまま答える。最近少しずつ寒くなってきたので、部屋につくまで手を緩めたくなかった。

部屋に入るなり、何処かで買ってきた古臭い灯油ストーブに父親がマッチで火をつけて、その火でついでにタバコを点ける。

その煙が次郎にあたらないように気をつけながら、豪星は適当にその辺りにクッションを引いて座った。ついでに父親の分も投げてよこす。

「ごはんはどうする?」

「外で食べてきたから俺は良いよ」

「そっかー、じゃあカップ麺でも食べよっかな」

いそいそと冷蔵庫の上に置かれた大きなバケツを手に取り父親がソレの蓋を開けた。中に適量のお湯を注ぎこみ、机に戻って手を合わせる。

その光景をみると自然においしそうだなと思った。腹は減っていないが、人が食べている姿というのは別腹のようだ。

少し頂戴、と言いかけた時、ぴんぽんと呼び鈴が鳴った。こんな時間に来客?珍しいな。

ちょっと出てくれる?と父親に言われたのではいはい頷き扉を確認しに行くと。

「あ、詩織お兄さん」

「豪星!僕が此処に居る事適当に誤魔化して!」

豪星がのぞき穴を確認した瞬間、奥でばたんがたん!!と大きい音がした。どうやら隠れたようだ。来客相手に隠れるとかほんとになにやらかしてきたんだろう。

豪星が扉を開けると、相変わらず豪奢な出で立ちの男が「お邪魔するぞ少年!」と覇気のある声で入って…、いや、乗り込んできたという方が雰囲気的に合っているな。

「先日出張に行ってきてね、その時の土産を持ってきた、食べると良い」

「そうですか、わざわざ有難う御座います」

「いや、気にしないでくれ…所で、誰か居たのかい?」

靴を脱いで直ぐ中に入り、高級そうな箱を豪星に渡した後、目敏く二つ分置かれたクッションを見つけた詩織が豪星以外の所在を訪ねてきた。

心なしかうずうずして見えるのは気のせいだろうか。

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