おやつをご馳走になった後、久しぶりに訪れた光貴の店、うっすらとした明りに照らされた扉を開けて先に猫汰が入ると、途端「あれ？」と素っ頓狂な声が二つ響いた。ひとつは猫汰だが、もうひとつは。

店の中に足を進める猫汰に続いて豪星も中に入った。すると、カウンターの向こうでこちらに手を上げる光貴、その隣に、別の知らない男が笑顔で手を振っていた。正確には、猫汰の方に。

その相手に手を振り返しながら「ハルがいる」と猫汰が呟く。

「猫さん久しぶりー」

「豪星も久しぶりー」

前者の台詞がハルと呼ばれた男で、後者の台詞が光貴からだった。とりあえず光貴の方にはぺこりとお辞儀をして、ちらりとその隣を伺う。

とりあえず座ろうと猫汰に促されたので二人カウンター席に座ると、男がさっと目の前までやってきて「こんにちは、初めまして」と豪星に挨拶をした。慌ててお辞儀をしてから、は、と固まる。

男は２０代前半位の、幼さと優し気を顔に灯す爽やかな好青年だった。猫汰程では無いが１０人居れば８人はかっこいいと賛同しそうな面立ちだ。

しかし残念な事に、その顔には目立つ場所に傷があった。怪我でもしたのだろう。

「………？」

その顔に、何故か見覚えがあった。昔何処かで出会った事でもあるのだろうか？いやそれにしては、一方的な既視感な気がする。ましてや顔に傷などついていれば…。

…傷？違う、豪星が見たのは傷の無い顔だ。それは、大分昔に。

………あ！

「あおはる！」

突然声を上げた豪星にその場に居た全員が目を丸くした。それに気付かず、どんどん上がっていく興奮のままカウンターに身を乗り出す。

「あおはるさんだ！そうですよね！？」

「あれ？俺の芸名知ってるの？」

豪星の剣幕に一歩引きながらも、意図を掴んだらしい相手があははと笑う。

「どうもー、貴方の青春あおはるでっす、なんてフレーズだったかな？そうそう、俺あおはるだよ」

「やっぱり！サインください！」

色紙も無い癖に勢いで頭を下げると、男が「ええ！よしてよ！」と慌てて声を荒げた。

「俺もうあっちの業界やめちゃったからさ！一般人がサイン求められても…」

「え！そうなんですか！？」

「うん、もう随分経ったと思うんだけどなぁ、それにそんなに売れてなかったからまさか未だにそんな事言ってくれる子が居るなんて、ちょっと嬉しいね？」

「いや、あの、なんでやめちゃったんですか…？」

「前に怪我しちゃってね、ほら此処」

そう言って男が顔の傷を指さし、豪星があ、と呟く。相手がへへと苦笑した。

32>>
<<
top