昨日、偶々テレビで特集をしていた菓子の名前に、空っぽになっていた胃がぐっと反応した。
豪星が画面の中で一番心惹かれたのはチーズとベーコンがたっぷり乗ったお食事パンケーキだ。そういうものもあるのかと尋ねれば、勿論だよ!と猫汰が頷く。ふわっと気持ちが増した。が。
「あ、…すみません、俺掃除当番でした」
何の為にロッカーの前に居たかを思い出し、慌てて頭を下げた。
「えー?そんなのさぼっちゃおうよー」
「いけませんよ、猫汰さん」
「…ダーリンの真面目さん、でもそういうとこ好き」
不服そうに、しかしちょっとうずうずした顔を滲ませた後、さっと眉を下げて「仕方ないね」と猫汰が苦笑した。
「ごめんね急に誘って、また今度一緒に行こうね?」
「はい、分かりました」
「うん」
バイバイ、と言って踵を返した猫汰だったが、丁度扉の隣で帰り支度をしていた原野を見つけると、その肩をとんとん叩いた。
「ああそうだ突然思い出した、原野君、せんせーが原野君を呼んでたよ?ちょっとおいで」
「ひ!」
にこにこ笑って猫汰が原野の肩を持ち、豪星に振り返って手を振ってから二人で教室を出て行った。それに手を振り返した後、直ぐに箒を手にして汚れた床をさっとはき始めた。
それから暫くして、豪星が掃除を雑巾がけに移行した時分、突然原野が教室に飛び込むようにして戻ってきた。その勢いのまま、バケツの水に雑巾を浸していた豪星の手をがしっと掴む。
吃驚して顔を上げると、血走った目に見降ろされた。
「ご、豪星、俺が当番代わってもいいかなぁ!?今俺すっごく掃除がしたくって!もう掃除しないと死んじゃいそうな気がする位したくってさぁ!」
「え?でも原野、昨日当番だったんじゃ…」
「や、やり残し!そうだやり残しがあって!どうしても今やらないと落ち着かないんだ!」
「どこ?俺が代わりにやってお」
「いいからあぁぁぁあ!!かわってぇえええ!!」
涙交じりに懇願されるので、そんなにやりたいのならば…と雑巾を手渡した。途端、薔薇色の笑顔を浮かべた原野が、雑巾とバケツを持ち上げ早速教室の隅から掃除を始めた。気迫迫る勢いだ。
「じゃあ、…俺帰っても大丈夫か?」
「勿論だろ!ていうか早く行って来い!!」
「え?どこに?」
「いやいやいや違う!お気をつけてお帰り下さい!」
あまりにも帰れと急かされるのに首を傾げながらも、豪星は荷物を手早く纏めて教室を出て行った。玄関に向かい靴を履きかえていると―――突然目の前が真っ暗になる。
うわ!と驚いていると、背後から「だれだ!」と声を掛けられる。そっと、隙間の空いた視界から外の景色が見えた。
「猫汰さん…?」
「ダーリン!お掃除終わるの早かったね!一緒にかえろー!」
既に帰宅したものだとばかり思っていた人物がそこに居たので「先に帰ったのでは」と疑問が零れた。それに、ふふふと相手が含んだ笑いを落とす。
「やっぱり待ってたくなっちゃって、ね、今からならまだお店行く時間あるよ、一緒に行かない?」
「それは、猫汰さんが良ければ…」
「もちろんだよ!あ、そうだ、パンケーキ食べたらみつのお店にも寄ってこう?近いし、みつが会いたがってたし」
「そうなんですか?それじゃあ久しぶりにお邪魔させて貰おうかな…」
「うんうん、じゃあいこうか!」
帰宅後の行き先をぽんぽん決めた後、猫汰は嬉しげに豪星の腕にしがみつき、眦の下がった上目遣いで豪星を見上げた。
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