風呂から上がったばかりの須藤を呼び止め、話があるからといって居間に引き込む。

畳みに胡坐をかいて座る須藤の目の前できちんと正座すると、豪星の物々しい雰囲気に感づいたらしい須藤が眉を顰めた。

「なんだ畏まって、話ってのはなんだ?」

「その、俺…そろそろ家に帰ろうと思って」

「………」

本題を直ぐに切り出すと、それは予想してなかった、みたいな風に須藤が口をぱかっと開けた。お互いそのままの姿勢で話を続ける。

「帰りたくなったら帰って良いという話でしたし、そろそろお暇しようかと思って」

「………」

「…あ、あの、それと、ホントは俺、親父さんに嘘をついてて」

いずれ言わなければと思っていた事を、その場の勢いを借りて口に控える。須藤は未だ口を開けたままだ。

「俺、家出は家出だったんですけど、実は、親父さんが思ってるような理由で家出した訳じゃなくて、あの、出て行こうと決めた時にはちゃんと説明しようと思ってて…」

どうして、何故、豪星が家を出てあの公園に座っていたか、その経緯をぽつりぽつり、一部敢えて伏せながら話すと、須藤の空いた口がますます広がった。

最後に「すみません、お叱りはきちんとうけます」と深々頭を下げる。と、その頭を急に鷲掴みされた。

早速ぶん殴られるのだろうかと思い歯を食いしばっていると、次の瞬間、わしゃわしゃと頭上を撫でられた。

「なにを水くせぇことを…!」

「…えーと?ごめんなさい、なんの話でしょうか?」

「なんのって!お前が言ったんじゃねぇか!自分を慕ってくれた女の為にけじめがつけたかったんだろう!?」

「………」

「自分を責めるな豪星!男にだってな、考えたい時とか時間が欲しい時なんてざらにあるんだよ!それをお前、誰にも言わずひとりで考えたのか、つらかったなぁ…!」

「………」

そういえばこういう話好きって言ってましたね。

えーと、これは多分、嘘ついてたけどオッケーってことかな?

「叱るだなんてとんでもねぇ!お前が俺に打ち明けてくれて良かったぜ…っ」

はい、オッケーみたいです。

「…親父さんがそういうなら、まぁ、いいか」

「どうした?」

「いいえ、何でも無いです」

「けど、そうか、もう帰っちまうのか、淋しくなるなぁ、…早く帰れって思ってたつもりだけどよ、いなくなると思うとこうも惜しくなるもんだなぁ、龍児にはこの事言ったか?」

「いえまだ、ちょっと今揉めてしまっているので」

「ああ、そういやお前等喧嘩してたな、アイツなにしてお前を怒らせたんだ?」

豪星では無く、龍児が悪いと決めつけているあたり流石分かっていらっしゃる。

「大した事じゃないんですよ、ただ、ちょっと前に俺の分までおやつを食べられちゃって、ちょっと腹が立ったので謝ってくれるまで無視しました」

「ははは、そうか、アイツらしいな、まぁたまには良い薬になるんじゃねぇの?」

「ですよね」

「ところでお前、何時頃家に帰るんだ?」

「はい、近い内に…は…?」

不意に気配を感じて視線を外す。すると、向こうの襖が少し空いている事に気が付いた。目をこらすと、襖の隙間から目つきの悪い瞳がひとつこちらを凝視している事に気付く。龍児だ。

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