転入生として豪星の学年に潜り込んできた猫汰は、またどんな魔法を使ったのかクラスまで豪星と同じ配属となった。

一度こっそり聞いてみた時「お金があればできるよ?」と返ってきたので、それ以上は聞くのを止めた。

猫汰はひたすら豪星にべったりと付き添い、イケメン転入生にお近づきになりたい女子たちの視線に一瞥もくれず、事もあろうか「自分達は付き合っている、恋人だ」というのを思い切り吹聴して周った。

「もう少し慎ましくしましょう」と、遠回しに勘弁してくれと嘆願した所「俺の青春は恋とダーリンの為にあるから!」と教室のど真ん中で叫ばれ、以降迂闊に願い縋る事も出来なくなってしまった。

ちなみに此処暫くで、自分が影でつけられたあだ名は「地味なホモ」である。センスが無さ過ぎて当事者が涙を零すレベルだ。

ちなみに猫汰は「イケメンなホモ」である。そこはかとなく差別を感じるのは気のせいだろうか。

それほど友人が多い訳でも無いので実害はほとんど無いのだが…。いやそれでも、やっぱりつけられたい称号じゃないよね、ホモ。

そもそも自分は性分的に何時でも大人しくありたいのだが、平凡で普遍的なソレが何故か実現しないのが最近の悩みである。

叶わぬ現実にガッツリ溜息を付きながら教室の隅にあるロッカーに近づくと、悩みの元凶が教室の外から中に入り、にこにこと笑って近付いて来た。

溜息の数が増えた豪星とは違い、猫汰は毎日幸せそうである。

「おまたせ!ダーリンの分の提出物も出してきたよ!」

「ああ、お手数おかけしました、有難う御座います」

「いいの!彼氏として当然だよね!もう、先生ったら中嶋の分も持ってきて早速妻気取りかってからかわれちゃった!あの先生お給料上がるといいね!」

「ははは…」

…夏休みの時には多少好意的に見えていた彼の気遣いだったが、こんな状況にされてしまった今となっては過去の遺物に近いものがある。

別に彼の事を嫌いになった訳じゃない。ただ、それ以前の問題なだけで。

「それよりダーリン、一緒にかえろ?あのね、西駅の近くに美味しいパンケーキのあるお店知ってる?」

「いえ」

「わ、良かった、最近見つけたんだけどそこのパンケーキほんとに美味しいの、ふわっふわなの、ね、ね、一緒にいこ?」

「パンケーキ…」

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