少しぼんやりとしていた豪星の肩を隣からバシバシと叩かれた。いたいよと呟き振り向くと、龍児がす、と黒い板を差し出してくる。メニュー用のパネルだ。
「これで注文しろって言われたけど、よくわからんぞ」
「ああ、これね、この棒でこうやって押して…」
「お、豪星詳しいな、俺もこういうのよく分からんから頼むわ」
ぴ、ぴ、と、電子音を立てて画面を進めていくと、120分の数字と、食べ放題の文字と、食事の写真が出てきた。数々の魅力的な写真に龍児の目が釘づけになる。
須藤が机の向こうで「好きなだけくえよー」と念押した。
「とりあえず何食べる?」
「にく」
「ハラミ?ロース?カルビ?ホルモン?」
「ぜんぶ」
「タレはどうする?」
「ぜんぶ」
「魚もちょっと頼んでおく?」
「ぜんぶ」
「…うーん分かった、俺が注文していくから龍児君はひたすら食べててくれる?」
「ぜん…おう」
注文限度を超えるまで入力し、次々にやってくる肉を網の上で焼き始める。時折、生のままかぶりつきそうになる龍児を諌めて、自分の分を確保しつつ、リレーのように注文を重ねていく。
粗方肉の種類を制覇すると今度は海鮮やサイドメニューに移行した。まだまだ食べたりない龍児が、時折弾けて飛び上がる殻付の海老にびくりと震えながら、待ち遠しそうに喉を鳴らした。
そろそろ汁物どう?と尋ねると、海老の後だと提案を押しのけられた。
自分の分の汁物を頼み、龍児が焼き上がった海老をはふはふと齧りついていた時、それまで黙って自分の分を食べていた須藤に「なあ」と声を掛けられた。
目線だけを上げて須藤を見ると、とても柔らかい視線と目がかち合った。
「そうしてるとお前等兄弟みたいだな」
そうですかね?と言えば、そうだよと返される。そうかな?と龍児の方を振り向けば、じっと見返された後、ふいっと視線を逸らされた。気に障ったのだろう、かと思いきや。
「照れるな龍児」
須藤の一言でガン!!と立ち上がり、足早にトイレの方へ向かっていった龍児の背を見た時、ふわりと、胸の内がぬるく揺らいだ。
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