「お前等、ゲームもいいがそろそろ腹減っただろ、飯食いに行かないか?」
負けた事を指摘されふてくされていた龍児だったが、食事の話題が出た瞬間眉間の皺を全て吹き飛ばし「いく」と言って立ち上がった。
その頭を須藤ががしがしと無造作に撫でた後、豪星に向かって「行くぞ」と声を掛ける。「はい」と慌てて頷き、テレビやゲームを片付け二人の背を追った。
階段を降り玄関で靴を履きぴったりと寄り添う犬二匹の小屋の前を通り、何時ものトラックでは無く4人乗りの乗用車に乗り込んだ。
運転席に乗り込んだ須藤が「沙世の奴がな」と話し始める。
「社協の会合で昼にいねぇんだ、俺が昼飯作ってやってもいいんだけど、折角豪星が居るんだしな、この前出来た肉も魚もいっぱい食える飯屋いくぞー」
助手席に乗り込んだ龍児が無表情のまま、目だけをランランとさせてこくりと頷いた。後ろに乗った豪星も、シートベルトを付けながらおねがいします、と賛同する。
車が発進してから15分程経った後、須藤が大通りから左折して車を停めた。そこそこ大きな車が30台は停められそうな敷地に、パズルのような形で車がひしめき合っている。
建物の入り口付近には大きな円形状の花が幾つも並び、名前と共に祝辞が掲げられていた。偶に、その花の一部を行きかう人々が毟り取っている。
3人で中に入ると早速店員が駆け寄り「何名様ですか?」と尋ねてきた。須藤が指を折りながら対応している間、豪星と龍児は近くの椅子に座り込んで待機をする。
見渡した店内はとても賑やかで、豪星達のように椅子に座っているグループがいくつか視界を掠めた。
この賑わいならば少し待つだろうかと思いきや、話終えたらしい須藤がこちらに来るよう親指を立てた。
立ち上がり、傍に行くと、にっと笑って「お前等、喫煙席気にしないだろ?」とほぼ決定状態の確認を取ってくる。二人で顔を見合わせ、同時に頷いた。
早速向こうのテーブル席に通され、須藤を向かいに、龍児を奥の隣に通して座った。テーブルの真中には物を焼く為の網が敷かれていて、豪星達に付いてきた店員が早速中を点火させた。
座って直ぐに渡された手拭きを須藤がもてあそびながら「肩身が狭いのも偶には役に立つな」と言って笑った。
「煙草の事ですか?」
「そうそう、最近は禁煙だ分煙だの、何かとうるせぇがこうしてみりゃ特等席扱いだな」
「…村八分にも見えますけどね」
「ぽじてぃぶに考えようぜ、豪星」
なまりのある向上心を唱える須藤に、自分は吸わないので合意はしかねますと答える。すると、かたいねぇと軽く笑われた。以前、父親とも同じようなやりとりをした事を思い出す。
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