「龍児君、随分大人しくなりましたね」

こっそり龍児の成長を須藤に耳打ちすると、途端須藤が「あー…」と妙な声を上げた。どうしましたと尋ねるが、いや、なんでもないと、どらやきを食べながらはぐらかされる。

「それよりお前龍児とゲームしてやれ、前より遊ぶの増えてるから」

「ゲーム!」

須藤の提案にいち早く反応した龍児が豪星の手を引き、早く早くと先を急ぐ。はいはいと苦笑して、引かれるままに立ち上がる。

元は二人部屋、今は龍児の一人部屋として使われている二階部屋に向かうと、隅に置かれた枠の少し割れたテレビと、無造作に置かれたゲームのハードに龍児が勢い良く飛びついた。

尻を突き出す形でいそいそとゲームの角度を直し始める龍児の姿は、中々に微笑ましいものだ。

後入れのゲームが入っている箱を漁り出した辺りで後ろから「何にするの?」と問いかけた。すると、一度手の動きを止めた龍児が、バッ!と振り返り、「かくとう!」と叫んだ。

手には、豪星が此処を出る前二人でやたらと遊んだ格闘ゲームの、次のシリーズが掴まれている。

「おー、親父さん2買ってくれたんだね、いいねやろうよ」

「よっし!」

開閉口を半ば無理矢理に空けてから龍児は早速ゲームの接続を始めた。テレビの画面を切り替え、コンセントを差し、3色のケーブルを繋ぐ。

初めの頃はどうして良いのか分からず、ゲームの準備を豪星に任せては凄い凄い!と感心していた龍児だったが、見違える程手際が良くなったものだ。

これが俗に言う、好きな物程早く覚えるという奴だろうか。

画面から流れてくる独特の起動音を何度聞いても懐かしいなと思う。そこから、チープな3Dが姿を見せ始めると、龍児が期待に目を輝かせるのを感じた。

それを盗み見ながら苦笑する。豪星も昔、ゲームをする度こんな風になったものだ。こういう懐かしさを感じるのも、ゲームをする楽しみの一つだろう。

音声もろくに聞かないままキャラクターの選択画面に入り、龍児は左端を、豪星は右端のキャラクターをさっと選んだ。

何処で戦うかも選んだ後、早速対戦の合図がリアルな音で鳴り響き、二人画面に熱中し始める。時折ポーズをしながら技を確認し、本番中に練習し、頭で覚える。大体、以前の物と似通っているので分かりやすい。

龍児の選んだキャラクターは身体が大きいので、線の細い豪星のキャラクターでは力の部が悪い。脇に寄せて、小技中技を繰り返し、それでも猪突猛進に襲ってくる相手を、タイミングの良い所で必殺技を操出しなぎ倒す。

丁度、制限時間が0になったのと同時に、相手のキャラクターが後方に倒れた。

よし!と小さく叫んで拳を作る豪星の太ももを、龍児が肘でガンガンに小突いてきた

「お前卑怯だぞ!」と、何度言われたか分からない文句を飛ばされる。

「卑怯じゃないって、龍児君の使い方が下手なんだよ」

これも何度言ったか分からない台詞に龍児が「だから特訓したのに!」と歯がゆそうに答えた。…豪星の目から見れば少しも変わっていなかった腕前だが、敢えて言わないでおく。

「なーんだ、龍児、負けっぱなしだな」

暫く遊んでいると急に背後から呼びかけられた。新しいキャラクターを吟味していた龍児の背が猫のように震える。

じろ、と振り返る龍児につられて豪星も首を回すと、何時の間に入ってきたのか、須藤が畳に胡坐をかいていた。

「3回とも全部負けてるじゃねぇか」と勝敗を実況されると、そんな前から後ろに居た須藤に気付かなかった自分に吃驚した。どうやら、かなり盛り上がってしまっていたようだ。

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