「まぁ最近は夜に抜け出すのも頻繁じゃなくなったな」
「そうなんですか?」
「ああ、偶には出かけてるみたいだが前ほどじゃない、それよりも最近は勉強がな…」
「べんきょう?」
聞きなれない単語に疑問を抱いて声を上げた瞬間、直ぐ近くから「ごーせー…」と寝息交じりに呼びかけられた。振り向くと、目を半分に開けた龍児が、眠そうな顔をごしごしと片手で擦っている。
ひらひらと手を振ると、夢見る顔が段々と像を結んでいく。確りと意識を取り戻した瞬間、ば!と立ち上がり、そして派手に転んだ。
「だ、大丈夫龍児君!?」
心配して駆け寄ったが、倒れた龍児はその恰好から素早く体制を直し豪星にとびかかってきた。その勢いで廊下の方まで飛び出す。馬乗りになった龍児の膝が脇を抉ってかなり痛かったが、相手はそれどころでは無い様子で「ごうせい!!」と声を荒げている。
「やっと来たのか!おせぇぞ!!」
「ご、ごめんね、ちょっとばたばたしてて…」
「良い!遊べ!いますぐ!」
「ははは、命令なんだ」
相変わらずな龍児の口調に見上げながら苦笑していると、急にすっと勢いを止めた龍児がすごすごと豪星の上から退いた。
それから、正座を組んだかと思えば「…遊んでください」と丁寧に言い直し頭を下げてくる。
「や、別に言い直さなくていいよ」
「…わかりました」
「…なんか今日言葉使い変じゃない?」
龍児の行動に違和感を覚えて指摘すると、急に龍児が目を丸くして口を引き結んだ。ぷるぷると震えた後、何故か「違うぞ」と否定される。
「ちがうぞ、なにもしてません」
「うん?そうなの?」
「違いますぞ、なにもしてないんです」
「…うーん?まぁいいや」
「おおいお前等、茶が入ったぞ」
丁度良い時に須藤が声を掛けてくれたので二人廊下から居間に戻った。丁度、沙世が「折角だし皆で食べましょう」と豪星の買ってきた土産を開いている所だ。
「伊間屋のどらやきとは洒落たもの買ってきたな」と須藤がはにかみ、それを聞いた龍児が「お前が買ってきたのか!?」と大げさに驚く。
「すげぇ…、大人だな豪星」
「そうでもないよ、それより食べようよ、美味しいよ此処のどらやき」
「おう!」
早速三つ確保した龍児が包装を乱暴に破りながらもふもふとそれを食べ始めた。時折、須藤や沙世に「もう少し丁寧に開けろ」とか「もうちょっと綺麗に食べましょうね」と助言されている。
てっきりうるせぇと一蹴するかと思えば、言われる度にはっと目を開いて直す努力をしている。
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