次郎をケースに入れ、適当な場所でお土産を買うと須藤と初めて出会った公園に向かった。

指定された時間よりも少し早く辿り着いたそこでは既に白いトラックが待機していて、運転席はもぬけのからになっていた。

トラックを何度か見渡した後公園の中を覗くと、何時かのように、須郷が灰皿近くのベンチに腰掛け煙草を吸っていた。

ぼう、と空を眺めているその顔に「須藤さん」と声を掛けて近づく。不意を突かれたらしい須藤が、ぴくりと肩を押し上げてから、振り返って嬉しげな顔を見せた。

「早かったじゃねぇか豪星、次郎も」

ケースの外から須藤がよしよしと手を振ると、ことことと次郎がはしゃぐ様子が分かった。その愛らしい反応に二人で相好を崩す。

「久しぶりだなー」

「そういう台詞は半年くらい経ってから言うものですよ、親父さん」

「何言ってんだ、前は毎日一緒だったんだぞ、全く、家から人が出て行くってこういう気分なんだな、…立ち話もなんだし、行くか、龍児も待ってる」

「はい」

半分くらい燃え尽きていた煙草を灰ごと皿に押しつぶすと、須藤は豪星と次郎を誘いトラックに向かった。ばたん、と大きな音を立てて、エンジンを吹かして公園を後にする。

住宅街を通り抜けると直ぐに田園地帯に差し掛かった。あの、鼻を痒くさせる独特の匂いはまだ健在だったが、背を堂々と伸ばし風に揺れていた穂先は既にほとんどが姿を消していた。

何週間ぶりに見た景色は呆気にとらわれる程様変わりしていて、豪星の気持ちに季節の変わり目を再び知らせてきた。

「秋になりましたね」と何となく呟けば、須藤が「そうだな」と律儀に返事を返した。ごし、と鼻を擦る。いずれこの匂いは冬に消えてしまうのだろう。

閑散とした田園地帯の更に向こう側、須藤の家にトラックが辿り着くと早速次郎をケースから出して外につないだ。ぱたぱたと、どこかへ行きたそうに次郎が動き始める。

豪星の姿を見るなりぎゃんぎゃん!と吠え始めた敷地内の犬、もとい嵐の傍に、嬉しそうな次郎をそっと寄り添わせると、犬はぴたりと吠えるのを止め、懐かし気に次郎の匂いを嗅ぎ、そしてべろべろに舐め始めた。

しかし時折、恨めしそうに豪星を伺っているのは気のせいだろうか。

犬からの視線を複雑な気分で受け止めてると、背後で須藤が「早く中に入れ」と急かしてきた。

はぁいと返事を返し、玄関に向かう。その敷居を跨ぐ前、はたと思い出し、鞄から買ったばかりの土産を取り出した。

「すみません、これ良かったらどうぞ」

「あ?なんだこれ?」

「お土産です、食べてください」

「お前…っ」

土産の箱を受け取った瞬間、須藤がぐらっとその場で傾いだ。急に顔を伏せるので、慌てて「大丈夫ですか!?」と心配したが。

「人に土産を持ってくるなんて、お前も見ない内に立派になったな…!」

次の言葉ですっと心配が引いた。この人はいちいちリアクションがオーバー過ぎる。そろそろ慣れなければ。

すっかり様子を取り戻した須藤が箱を持っていそいそと居間に向かった。戸に手を掛けながら「おおい」と、多分向こうに居るのであろう人に声を掛ける。

「豪星が来たぞー!土産も…って、おっと」

居間の戸を開けた瞬間、座っていた沙世が「しー」と人差し指を口に押し当てた。それから、豪星に笑顔で手を振って隣に座るよう促してくる。

向こうでは見知った人が旋毛をこちらに向け突っ伏していた。すうすうと、規則的な息が聞こえてくる。どうやら寝入っているみたいだ。

「なんだ龍児、寝ちまったのか」

「ええ、さっきまで頑張って起きてたんだけど、夜更かししてたみたいだからねむくてしょうがなかったみたい」

また人探しですか?と尋ねると、須藤に「馬鹿」と頭を小突かれた。痛い。

「お前に会うのが楽しみ過ぎて寝られなかったんだよ」

「……うーん」

それはなんというか、嬉しいというか恥ずかしいというか、ちょっと痒い気持ちだ。

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