豪星も気になって立ち上がり、猫汰の隣から外を見て、直後、ひぃ!と後ずさった。
おいおいおい!!何でこんな寂れた小道に云千万の高級車が停まってんだ!!明らかに仕事頑張っただけじゃ買えない車だぞあれ!!
がたがたと震える豪星を他所に、高級車から出てきた誰かが豪星の部屋の呼び鈴を鳴らした。床に尻もちをついた豪星の代わりに猫汰が扉に近づき「はあい」と嬉しそうな声を上げてノブを開いた。
かつ!と上品な靴音を立ててその人は中に入った来た。光沢のある白い背広、上等な黒いストール、フレームの無い眼鏡をかけた顔は、やんごとなき気品に溢れてた。生まれた時代を20年くらい間違えたような風体の男だ。
男は玄関先から、部屋の中にいる豪星を威圧的な視線で見下ろしてきた。
その眼光の鋭さに余計肩が震えたが、男は猫汰にぴっとりとくっつかれ「しおりちゃーん」と甘えた声を出された瞬間、すっと目を優しく緩ませた。
「猫汰、詩織お兄ちゃんだろ?」
「しおりちゃんこっちこっち!」
「はぁ…まったく」
男は相手が可愛くて全く仕方ない。みたいな雰囲気を醸し出しながら猫汰と連れ添い、豪星の元までやってくると再び眼光を鋭くさせた。
豪星の対面に正座で座り、豪星も釣られて正座を取る。猫汰は一旦お茶を淹れてくるからと言ってキッチンに引っ込んだ。
数秒、顔を合わせたまま沈黙した後、向こうがおもむろに「君が猫汰の恋人だね?」と尋ねてきた。ぶんぶんと首を縦に振る。
男は一度、鞄からハンカチを取り出すと強めに手を拭った。
「想像以上に粗末な家だな、これは矢張り私の予測が当たったと見える、…おい君、お邪魔して早々失礼するが率直に言うぞ」
「はい?」
「私の弟と今すぐに別れなさい」
…。
願っても無い。と思わず言いそうになった豪星にがつん!!とキッチンに居た筈の猫汰が抱き着いてきた。どうやら内容を聞きつけ飛び出してきたらしい。
内臓を筋肉質な腕に締め上げられ、ぐぇえぇと揺れる豪星の肩の辺りで、涙声が「何言ってるの!?」と叫んだ。
「今までの売女どもなら直接話しをつける必要も無かったんだがね」
「やめて詩織ちゃん!!ダーリンに余計な事言わないで!」
「ご覧のとおり、弟が随分君に惚れ込んでいるようだからこれは保護者として少し君と話をせねばと思ってね、…で?いくら欲しいんだ?」
「はい?」
素っ頓狂な声を上げる豪星の前に、どさっと何かが落とされた。紙を何重にも重ねて束にしたソレはこの国で最も高いお札の束だ。しかも、5束位無造作に転がっている。ひゅ、と、息が止まった。
「君が暫く姿を消した時、弟は自分の身体が目当てだったんだと言って泣いていたが、私の見解では金が目当てだと思っていてね、猫汰は遊び呆けてはいるが顔立ちに上流の気品がある、それに目をつけたんだろう?姿を晦ませば泣いた弟から幾らかせびれると思ったんだろう?全部金が目的だったんだろう?」
…何故だ、引いて言えば一応はその通りの筈なのに全然腑に落ちない。
あとこれ、さっきの願っても無い絶対言っちゃ駄目だな早急に誤魔化さねば。でないと札束分の何かされる。
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