「………俺のおやつ」
以前から度々こんな事は良くあった。おやつにしろ夕飯にしろ龍児が豪星の分まで食べてしまう事が。
その度「しかたないなぁ」と特にその行為を咎めずにいたし、毎度気にしてもいないつもりだったのだが。
丁度咀嚼を終えてごくりと飲み込んだらしい龍児の背に、ふらりと近づき立ち止まる。
龍児は気配に気づいている様子だが、振り向かなかった。
「龍児君、俺のおやつまで食べたでしょ?」
「おう」
毎度、気にしていないつもりだった、というのは実際嘘だ。偶には気にしていた。けれど口に出す迄では無かった。けれど。
その日だけは、その、振り向きもしない顔に―――何故か無性に腹が立った。
「龍児君の馬鹿!」
「!?」
「俺だって食べたかったのに!せめてひとこと言ってよ!」
初めて彼に怒鳴った所為か、龍児が滅茶苦茶びっくりした顔で豪星に振り返った。
少しすると、状況を理解したのかだらだらと額から汗を流し始める。
龍児は暫く黙り込んでいたが、声を聞きつけたらしい須藤が「どうした!?」と飛び込んできた瞬間、さっと立ち上がり、須藤の脇を抜けてその場を逃げ出した。
それから、お互い状況を直さないまま今に至る。
…いや、もうちょっと言えば今はもうおやつどうこうに対しては怒ってないのだ。というより、龍児が逃げ出した時既に我に返っていた。
突発的な怒りだったので、ちょっと言い過ぎたかなとも思っていた。
けれど、逃げ出した龍児の背を見た時、偶には良い薬かもしれないとも思ったのだ。
此処暫く一緒に居て良く分かったのだが、彼はあらゆる物事に対し、何が良くて何が駄目なのか判断する力がひとより大分欠けている。つまり礼儀や節度に度々おかしな所があるのだ。
初見は付き合い方が分からなくて唯ひたすらそれを恐れたが、此処暫くの経過で口が利けるようになった今では勝手が違ってくる。
許せる事の方が多いとはいえ大なり小なり偶には不満を感じるのだ、友達になった以上少しは反省して貰おう、などと、初めの関係性に比べ随分進歩した事を考えものだ。
それが2日も口を利かなかった訳だ。向こうから謝ってくれれば直ぐに辞める事にしている。
まぁ、実際には2日経っても謝って貰えなかったので言い出しやすいように催促にいったが。逃げられてしまってはしかたがない。
………。
なんてな。謝る事に関しては俺も人の事を言えないか。
「……ん?」
近くに懸けてあったカレンダーがふと目に飛び込んだ。
端の少し汚れたカレンダーは何度も破った跡があり、今日の数字は既に終わり頃を表していた。此処に来てもうずいぶん日が経っている様子だ。
じっと、経過した日にちを眺めていると示し合せたように携帯が鳴った。誰だろうと取り出し、宛名を見て驚く。公衆電話だ。…これはまさか。
「…もしもし」
『やっほー、豪星くーん、元気にしてたー?』
「すごいタイミングだね、見てたの?」
『え?なにが?』
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