「さっきは猫汰さんにも父さんにも色々流されちゃったけど、俺、その事をひとりで考えようと思って暫く家を空けたんだ」

とつとつ、豪星は暫く離れて暮らしていた現状を父親に語った。中途半端に説明していた猫汰との出会い、そこからの生活、申し訳なさからの別離、そこでの生活、そして今に至る事を。

カップ麺が終わるころあいに、話終わった内容を頷きながら聞いていた父親が「なるほど」と言って自分の箸を置いた。

「つまり彼は僕に認められても本来は意味が無い事を分かっていないという事か」

急に父親が不確かな事を言い出すので、豪星も箸を置いて「どういう事?」と尋ねた。

「売ってるくだものも生えてるくだものも瑞々しい、けど、くだものは木とつながっていなければ種にならないんだよね」

「うん?」

「逆に聞くけどね豪星君、僕は君と彼の交際も結婚も認めたよ?けど本当に君は彼と結婚をするの?言っておくけど、僕は君がうんと言うなら構わないよ?」

孫は見たいけどねぇ、と、冗談なのか本気なのか分からない言葉を自分で笑う。その軽い声を耳に入れながら、豪星は、…ううんと唸った。

「…あの人の事嫌いじゃ無い事前提に聞いてくれる?」

「よしきた」

「やっぱりそれは、ごめんかなぁ」

豪星が行き着いた答えが漸く形となって言葉に出た気がした。それを父親が一層笑う。豪星にか、猫汰にか、もしかしたら自分にか、判別のつかない嘲りにも聞こえた。

「だから言ったんだよ、ややこしい事にするなって」

「ははは!そっかそっかごめんごめん!だって珍しい事を経験するには彼は逸材だと思ったのも本当だし、そもそも事情なんてよく知らないから僕は彼が豪星君の彼氏だと言えばうんと頷くしかないさ!」

「常識的に考えろ」

「それは今更だ!僕は愛している方向にしか歩けない、だから他人の選択なんて関係なく、君も愛している方向に生きなさい」

「それ、昔から言ってるけど意味分からないよ」

「何時か分かる時がくるよ」

食べ終えた二つのバケツをひょいと手に持ち父親が向こうのゴミ箱にそれらを片づける。それからこちらに戻ってきて「布団かびてない?」と尋ねてきた。

過ぎた時間と、関係と、生活感を漂わせるその問いかけに、ふと豪星は思った。

ああ、父親が帰ってきたんだなと。普通は思わないであろうその台詞に少しだけ笑えた。

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