「やだおとーさまったら、猫汰って呼んでください!」
「わかった、猫ちゃんだねー」
「やだーお父様、呼び方可愛い!」
「僕は遅松っていうの、ま、呼び方なんてなんでもいいから」
「はーい!ね、ダーリン!お父様が公認してくれたよ!俺たち結婚するしかないね!」
「………」
ぎゅうぎゅうに抱き着いてくる猫汰から顔を逸らし、明後日の方を向く。そこには丁度良い事に、父親がにやにやしながら立っていた。
「ま、もう日も暮れてきたし中に入ろうか」
うっかり、リードを手放していたのに逃げ出さず良い子で待っていた次郎を抱きかかえた父親が足先を変えて扉に向かった。「きゅーん」と次郎が一声なく
脱力している豪星から離れ、しかし腕を離さず引きずる猫汰が「はーい」と賛同して父親の背を追った。が、急に父親が振り返り、猫汰の顔面に手を翳した。
「おっと、猫ちゃんはダメだよ?」
「え?」
「もう暗くなるからおうちに帰りなさい」
まるで小学生に言い聞かせるような口調で父親は猫汰に待ったをかけた。予想だにしない展開だったのか、猫汰が茫然と口を開けている。珍しい風体だ。
やがて我に返った猫汰が掴んでいた豪星の腕を振り払って遅松に詰め寄った。
「け、けど!俺たち付き合ってるんですからお泊りくらいしますし…!」
「高校生に泊まりは早い、鍵持ってるって事は僕が居ない間頻繁にしてたでしょ?だめだよ、鍵を渡しなさい」
「え、え」
「ウチの息子が好きで大事ならその親の意見もちゃんと守りなさい」
「……っ」
猫汰が一瞬、高校生に早いも糞もあるか、みたいな顔を浮かべた。何時もへらへらと笑う彼にしては珍しい顔つきだった。
しかし、その内しょぼんと肩を下げると、「はあい」と言ってポケットから鍵を取り出し父親に手渡した。
「また日の高い時間に遊びにおいで?高校生の内はそういう恋愛を楽しむものだよ、家に泊まるのもそれ以上の事も大人の楽しみだとおじさん思うから」
「…はい、俺また来ます」
踵を返した猫汰がとぼとぼと歩き出す。しかしふと振り返って、「ダーリン」と呼びかけられる。
「はい?…ぐえ!」
シャツの襟をぐいと引っ張られ、ちう、と、何時ぞやと同じ感触を頬に受ける。…あ、またキスされた。
「ひゅう、猫ちゃん大胆だな」
「ほっぺはセーフですか?」
「セーフかな?愛らしくていいじゃないか」
「えへへ!じゃあねダーリン!またねー!」
「…はい」
猫汰が小走りで機嫌良く去っていくのを眺めてからやがて父親とアパートの中に入った。そして。
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