て、いやいやいや、この人二人も人拾って面倒見るとかどんだけ良い人なんだよ。

こういうのを何ていうんだっけ、えーと、あしながおじさん?…ちょっと違うか?

「あいつもなぁ、道の隅に蹲って寝てたのを見つけてよ、お前に言ったみたいにウチに帰れって言ったんだが、ききゃしねぇ、そうだお前はどうだ?少しは帰りたくなったか?」

「…ええ、まぁ」

元々帰るつもりではあったから、嘘では無い。しかし、言った途端豪快に相好を崩した須藤の顔を見ると、騙しているような気がして堪らなかった。

今は言いにくすぎるので敢えて何も言わないけれど、落ち着いたら何時か絶対言おうと思った。それでげんこつの一発か二発貰おう。

例え騙していたのだとしてもタダ飯をしている訳では無い、屹度それで赦してくれるだろう、この人なら特に。

「着いたぞ豪星、此処だ」

「あ、はい」

「んじゃ、俺は行くからな、帰りに迎えに来てやるから同じ場所に居ろよ?時間は…4時位だな」

「分りました、有難う御座います」

「いっぱいあそんどけよー」

運転席の窓から大げさに手を振りながら須藤はエンジンの音をなびかせ去って行った。

お見合いする形で並ぶ店の前に降ろされた豪星は、とりあえず傘を差してから、下ろした次郎にリードを付けると、物珍しげにその真ん中を歩き出した。

「…へぇ」

入って直ぐに驚いた。今時商店街なんてのは寂れているイメージが突き纏っていたが、此処は雨天にも関わらず想像以上の人で賑わっている。

豪星のように、犬を連れて通りを散歩している人もいるし、そうでない若い男女も歩いているし、客層は様々だった。

暫く歩いて動物同伴容認シールを張った店を見つけると、近くに設置されていた低くて大きな椅子に傘を閉じて腰かけた。

すると、直ぐに中年女性が出てきて愛想良く茶を振舞ってくれた。

有難く受け取り飲み干していると、その場に居残った女性が「散歩?」と、気さくに話しかけてくる。

「はい、あ、でも、此処に来るのは初めてです」

「あらそうなの?観光?」

「いえ、最近この近くに勤め始めて…」

「そう、じゃあ今からいっぱい楽しめるわね」

「はい、…此処は人がたくさん居るんですね、もしかして観光名所なんですか?」

「そうそう、もう20分位歩いて商店街を抜けた所に、ちょっと大きな神社があってね…」

女性は人の良い笑顔を浮かべたまま、やれ、此処の見どころは何処だとか、生い立ちは何だとか、豪星にあれこれ説明をしてくれた。

あまりそういった話を身近に聞いた事が無かったのでそれは割に楽しく、真剣に聞き入っていると、土産の話に入った辺りで突然女性がそうそう!と手を叩き、奥に引っ込んで行った。

何だろう、と首を傾げていると、直ぐ、女性は手に盆を載せて戻って来た。

「今ね、新しい名産品を作ろうって話が組合から出てるのよ、ウチもそれに参加してるんだけど、今度の木曜に出品があるの、ねぇアナタ、良かったら味見をしてくれない?」

盆に乗っていたのはコロッケらしきものだった、作り立てなのか表面に綺麗な油が浮いている。

美味しそうな風貌にごくりと唾を飲み込んで、「いいんですか?」と期待に満ちた声を出す。

「勿論よ!若い子の意見はほんと大事だから、遠慮せずに食べてね?」

「有難う御座います、えーと、これ何のコロッケなんですか?」

「これね、チョコレートが入ってるのよ、珍しいでしょう?」

中身を聞いた瞬間、ぴたりと動きが止まった。そのままじっと固まっていると、訝しげに思ったのか「どうかしたの?」と尋ねられた。

そこで漸く我に却り、「何でも無いです」と片手を振ると、持ったまま放置していたコロッケを口にした。

「わ、美味しい」

確かにチョコレート味だが、唯チョコレートが入っているだけではなさそうだ。

口当たりは普通のコロッケに似ているが、ジャガイモよりもなめらかで甘みがある。

「サツマイモと混ぜてあるんですか?」

「そうよ、良く分かったわね、ジャガイモと間違える人も良く居るんだけど」

「ジャガイモの口当たりではありませんから」

「あら、ジャガイモの方を食べた事があるみたいな口ぶりね」

そう、食べた事があるのだ。

以前これと似た物を食べた時はジャガイモとチョコレートが混ざっていた。

何故かちっとも甘く無くて、そのくせチョコレートの存在感がやばかった。

おかずなんだかデザートなんだか良く分からない上に、味のカテゴライズも分からない、今、豪星が食べているこの美味しいコロッケとは比較しても仕切れない位不味いコロッケだった。

あれを食べたのは何時の日だったか。

まだそれ程日にちは経っていないのに、新天地に居る所為か、それはもう随分前の事のように思えた。

…元気かな、猫汰さん。

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