米の詰まった袋があんなに重たいとは思わなかった。しかも何十個も担いで腕がパンパンだ。
(……つ、疲れたっ!!)
1日の労働を終え、豪星は与えられた部屋の畳にぐったりと倒れこんだ。
今までバイト三昧だったので体力にはそこそこ自信があったのだが、その今までには無い、経験したことの無い疲れ方に身体が悲鳴を上げている。
まだ痛くは無いけれど、恐らく筋肉痛は避けられまい。
気だるい身体と腕をうんと伸ばしながら、豪星はそろりと顔を仰向けに上げた。すると、壁に背を預け、薄茶色に汚れた漫画を読む龍児の姿が目に映る。
部屋数の都合なのか、それとも単に仲良くしろという意味なのか、豪星は龍児と同じ部屋を須藤に割り振られていた。
その同居人の顔には、豪星とは違い、疲れのひとつも見当たらなかった。多分慣れているのだろう。
そりゃ、農家の息子が自分よりも仕事に精通しているのは当たり前か、何せ経験値が全然違う。
自分も涼しい顔で本が読めるくらい慣れたいなとぼんやり考えながら、特に意味無く龍児を見つめ、不意に、口を開いた。
「…あの、龍児君?」
そういえば今までロクに会話をしていなかった事に今更気付き、漫画を読んでいる龍児に何となしに話しかけてみた。
「何読んでるの?」
軽く問いかけた後暫く相手の返事を待ったが、何時まで待ってもあちらから声が返らない。むしろ、相手の顔、口、身体、全てがぴくりともこちらを向かない。
…え、まさか無視されてる?いやいやいやほとんど会話もしてないのに無視されるとかまさか。
と、思ったが、咄嗟に昼間の事を思い出す。そういえばあの時も、何度呼びかけても返事が返らなかった。
聞こえていなかっただけかと思っていたが、…まさか。
滲んだ不安に急かされ、豪星は今一度口を開いた。
「お、面白い?それ」
「…」
「えーと、おなかすいたね」
「…」
「今日のご飯なんだろうね?」
「…」
「沙世さん、ご飯上手だよね」
「…」
「…ご飯まだかなぁ」
最後のひと言だけは明後日の方を向きながら涙交じりに言った。
流石に此処までガン無視されるとは思わなかった。話しかけ続ける度気まずくなるとか凄いよ、泣ける。
「ご飯よー」
豪星の葛藤を余所に、タイミング良く階下から沙世の声が響いた。
咄嗟に返事を返そうとした豪星の隣を、龍児が吃驚する程素早く歩き去って行く。
それを見ながら唖然と口を開いて、しかしふと、我に返って切なくなる。
やっぱりお腹空いてるんじゃないか、それくらいの返事、返してくれたっていいのに。
もしかしなくとも嫌われているんだろうか。だとしたら何で嫌われているんだろうか。
訳が分からなくてもやもやしたが、訳が分からないという事はイコール打開策も分からないのでどうしようも無かった。
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