翌日、8時頃に起床して、朝御飯を頂いた後直ぐ、何故か帽子とタオルを渡され軽トラックに放り込まれた。

行き先も告げずに発進した車が辿り着いた場所は、須藤の家から少し離れた場所にある、田園の一角だった。

トラックから降りた須藤は、扉を開けたまま茫然としている豪星に近づき、「次はこれな」とまた何かを手渡してきた。

豪星の手に収まる大きさの棒に、三日月の刃がくっついている。

「…カマ?」

「お前は龍児と一緒に田圃の四隅を刈って来い」

丁度、もう一台のトラックがあぜ道に入り込んで来る、運転席には沙世、助手席には仏頂面の龍児が座っていた。

「えーと?」

「やり方は後で教える、大体どれくらい刈るかは昨日龍児が刈った分を見て覚えろ」

「あ、あの親父さん」

「なんだ」

「これは一体?」

疑問に首を傾げると、直ぐ、須藤が「まだわからねぇのか」と呆れたように肩を竦めた。

「仕事の世話をしてやるっていっただろ」

「―――あ、成る程」

朝に説明も無く連れ出され、しかも主語無くカマなど持たされたので、行き成り何が起きたのかと思っていたのだが、ひと言で説明され、漸く合点がいった。

ざっと、目の前の田圃を見渡してみると、確かに四隅が刈られた跡があった。全体を見ると、まるで図形か何かのようだ。

奇妙な光景に目を丸くしていると、不意に、田圃の隅に龍児が入っていく姿が目についた。早速仕事を始めるらしい。

一人さぼっている訳にはいかないので、須藤に粗方カマの使い方を教えて貰うと、豪星も田圃の中に足を踏み入れた。

不器用ながらも刈り始めると、何時の間にか須藤と沙世が飲み物だけを残して姿を消し、田圃の中に龍児とに二人きりになった。

暫くは二人黙々と手を動かしていたが、その内、目途を見つけて手を止める。

「―――龍児君」

これ位で大丈夫か聞こうと、相手の名前を呼び掛けた。

丁度反対側で稲を刈っていた龍児は声にぴくりと反応し、こちらに振り返ったが、何故か直ぐに背を向けてしまった。

「龍児君?りゅうじくーん!」

もしかしたら上手く聞こえなかったのかもしれないと、何度も呼びかけてみたが、龍児は先程の呼びかけ以降、一度も振り返らなかった。

畔道を回って呼びかけた方が良いかと考えた所で、丁度須藤が様子見に姿を現した。

トラックの中から「どうだー?」と明るい口調で話しかけてくる。

タイミングが良かったので須藤の方に教えを頂こうと、豪星は田圃を抜けトラックに近づいた。

「すみません親父さん、これくらいでいいですか?」

「おー、上等上等、じゃあ次はあっちを同じ位刈ってくれ」

「はい」

「あと水分取れよ、ちょっと疲れた位でもマメに取るんだぞ?」

「はい」

「大事だからな、マジで」

何度も念を押されるので、豪星はとりあえず飲んでいる姿を一度見せた方が良いだろうと思い立ち、道の脇に置いてあったスポーツドリンクに口をつけた。

知らない内に喉が渇いていたらしく、中身が勢い良く喉を通っていった。

同時に、ぞくぞくと背筋が震える。このまま行けば一本では足り無さそうだ。

「そうだ豪星、刈り入れが進んだらお前こっちちょっと手伝え」

「また四隅ですか?」

「いいやー?もーちょっと重いかな」

「?」

変にずれた会話に首を傾げる豪星を見るなり、須藤はかかと、楽しそうに笑った。

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