玄関で鳴り響いた音はどうやら彼の胃袋の音だったらしい。

腹が減ったと訴えてから直ぐ、彼はその場を引き返して向こうの扉を開けて入って行ってしまった。

お前も来いと言われたので、須藤と連れ添い和風住居、並びに居間へとお邪魔させて貰った。

中に入ると、先に座っていた龍児が茶碗(というか中身)を一心不乱にかきこんでる姿が見えた。

彼の前に置かれた机の上には年季の入った米びつが置かれている。唯、中身はほとんどなくなっていたが。

「おでれーたなぁ…龍児がまともに飯くってらぁ」

「はい?」

「ああ、いや、良いんだ、それよりほら、お前も食え!おーい沙世!おかわりもってきてくれ!」

「はーい」

沙世、と須藤が呼んだ瞬間、居間の向こうから優しげな女性が姿を現し、一端米びつを持ち去ると、それに新しい米を継ぎ足して戻って来た。

ついでに、豪星に出してくれた茶碗にたっぷりと白米をよそってくれる。

「いっぱい食べてね」

「す、すみません」

茶碗を受け取りながらぺこりと会釈すると、目の前の女性がふわりと微笑んだ。その、独特の雰囲気に少しドキリとする。

本当に優しそうな人だ。多分、須藤の奥さんなのだろう。

矢張り須藤のようなタイプには、こういった優しそうな人が奥さんになるんだなぁと、世の理を知ったかぶりしながら、豪星は頂いた米を口に頬張った。

すると、米特有の甘味が舌の上に広がった。何時も以上にそれを強く感じたので少し驚いてしまう。

米に味の優劣を感じた事は今の今まで無かったのだが、そんなとぼけた豪星の舌でも、素直に美味いと思える米の味だった。

一緒に出されていたおかずも勿論美味しかったが、なんというか、これだけ根本的な違いを感じる。

「美味しいですね、このお米」

つい、思ったことを口にすると、須藤と沙世が顔を見合わせ、同時に笑った。

「そりゃそーだ、何せ俺んちの米だからな」

「え?…ああ」

なるほど、田園地帯に囲まれている位だ、此処が農家でも、米が自家製でもなんら不思議は無い。

「農家さんのお米を直接食べたのは初めてです、美味しいです」

「そうかそうか、良かったなぁ、じゃあ、明日はもっと美味くなるなぁ」

「はい?」

須藤は白米を食べ終わった茶碗に茶を注ぎながら、主語の無いことを告げ、次いで「なぁ?」と、隣でもくもくと米を食べ続ける龍児に同意を求めた。

龍児はちらりと須藤を見たが、直ぐに視線を逸らし、黙々と食事を続けた。

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