「ああ、そういや豪星」
「はい?」
「話忘れてたけどな、お前の他にもう一人…」
須藤が何事かを言いかけ、玄関の扉を開いた時だった。
唐突に、ガシャーン!!というけたたましい音が、広い玄関の向こう側から聞こえてくる。
豪星と須藤は同時に目を丸くさせ顔を見合わせた、が、はっと、何かに思い至ったらしい須藤が、靴を乱暴に脱ぎ捨て、玄関の段差を駆け上った。
「龍児!!」
先ほどの音に負けぬ大声で、須藤が誰かの名前を叫ぶ。すると、返事の代わりに誰かが廊下の向こう側から姿を見せる。
黒い髪の、目元をきつく釣り上げた青年だった。
「龍児!」
須藤がもう一度叫ぶと、目の前に現れた男が嫌そうに顔を顰めた。どうやら、りゅうじとは彼の事らしい。
「待て龍児!」
男が玄関の脇を通り去っていこうとするのを、須藤が腕を掴んで阻止する。男は掴まれた腕をうっとおしそうに振り払うと、遠慮無く舌を打った。
「お前また飯を食わなかったな!」
「うるせぇな、何時も言ってんだろ、食う気がしねぇって」
「だからといってなお前!」
「うぜぇ」
とても冷たい声で須藤の言葉を遮った男は、まだ言い足りなさそうな須藤を完全に無視して踵を返す。向かった先は豪星が立ち尽くしていた玄関の扉だった。
外に出る気らしく、段差の下に置かれていたスニーカーを履き終わると、さっと立ち上がり豪星の居る扉へと歩み出した。
その時、初めて豪星と男の目が合った。
「……」
「……」
男はそこで始めて豪星の存在に気づいたらしく、少し目を丸くさせ驚いている様子だった。おかしな状況で対面した所為か、初対面にも関わらずお互い何の挨拶も出てこなかった。
男がその内、丸くさせていた目を半分に落とし、眉間に皺を寄せ始める。何の意図か分からず首を傾げたが、急に気づいて身体を脇に寄せた。
多分、邪魔だったんだな、それで睨まれたんだ、そう思っての配慮だったのだが、その気遣いが実を結ぶ前に、予想外が雪崩込んできた。
ぐぅと、訳の分からぬ大きな音が行き成り鳴ったのだ。
先ほどとは種類の違う、とても間抜けた音だった。
「…おっさん」
男が再び喋りだしたのと、須藤に振り返ったのは同時だった。
「ど、どうした龍児」
音に狼狽したらしい須藤が、どもりながら男に聞き返す、すると、
「はらへった」
服の上から腹を摩りながら、男が至極簡潔に言った。
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