乗せられた車の中で男と話すうちに、豪星は漸く自分の置かれている状況を把握した。
どうやら、男は公園で寝泊りを決意した豪星を完全に家出少年と思い込み、哀れに思って自分の家に招くことを勝手に決めてしまったらしい。
しかも、事情をもう少しかいつまんで説明した際、なんなら仕事の世話までしてくれるという事になった。
つまり、豪星はちょっとしたきっかけと出会いで、無くしてしまったはずの予定と雇用を復活させることが出来たのだ。
一時はどうなることかと思ったが、思いがけぬ幸運にテンションが上がる。
男――須藤さんは、初対面の印象は伝法であったが、話して見ると気さくな良い人で、これなら雇用先の状況も明るそうだ。
住宅街を抜け、見知らぬ道を通り過ぎると、急に視界が田んぼ一色になった。
自分の住んでいたところから少し離れただけでこんなに景色が違ったのかと、もの珍しげに辺りを眺めていると十字のあぜ道に差し掛かった辺りでトラックが進行先を真横に折った。
そこからまた直進すると、暫くしてから少し遠くに家屋が見えてきた。車は、迷いの無い動きで家屋の敷地に入っていく。どうやら此処が終着点、及び、須藤の住まいらしい。
トラックから降りると直ぐ、須藤は次郎の置き場所を案内してくれた。元々犬を一匹飼っているらしいので、そこに一緒に置いてくれるという話だ。
室内犬かつ、他の犬とあまり交流が無い次郎の様子が多少気になったが、豪星の不安に反し、地面に降ろした次郎はものめずらしそうにきょろきょろしながら
きゃんきゃんと走り回っている。とても楽しそうだった。
近くで寝そべっていた須藤の飼い犬とも相性が良かったらしく、出会ってまだ30分も経っていないのに、時折顔をべろべろと舐められていた。
「大丈夫そうだなー」
「はい、ありがとうございます、…かっこいい犬ですね、何犬なんですか?」
「さぁな、知り合いんとこの雑種が生んだ犬だからなぁ」
ざっしゅ……ああ、ミックスのことか。
「そういうお前の犬はどうなんだ、やたらめんこい顔してるから外国の犬か?」
「さあ…実は俺もよくわかってなくて」
「あ?ペットショップの犬だろ?」
「違うんですよ、これが」
み、いや、雑種かもしれませんねと曖昧に言えば、須藤が細い目を縦に押し上げた。
「ほぉ、意外だな」
「はは、よく言われます」
「だろうな、…冷えてきたな、おい、中入るぞ」
「あ、はい、宜しくお願いします」
頭を下げると、背を向けていた須藤が一瞬立ち止まり、振り返って言った。「ただいまと言え」と。
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