龍児からお金を受け取って売店のカウンターに向かう。

丁度、直ぐ傍にお茶のペットボトルが置いてあったので、それを二つ取り、ついでに龍児の為にさっぱりした小さなお菓子を一つ買い付け席に戻る。

まだちょっと気分が悪いのか、机に顔を乗せている龍児の旋毛に、うりゃ、とお茶を置いてやる。すると、何時かのようにびく!と肩が鳴った。

「驚いた?」

「………」

「怒らないでよ、ほら、これあげるから」

「別に怒ってない」

「そう?良かった」

良かった、の部分で既に龍児がお菓子を口に入れていた。もぐもぐと、本調子ではないがご満悦そうな顔で頬張っている。

菓子を食べている龍児を見ていると、豪星も急に腹が減ってきた。

「ちょっとおなか空いたね」

何となしに言うと、さっと龍児が食べていたお菓子のひとつを豪星に差し出してきた。有難く受け取りながら、ほっこりした気分になる。

龍児が食べ物をくれるなど当初では考えられない事だ。

いや、当初はもっと酷かったか、何せ話すらしてくれなかったのだから。今の気分をあえていうなら、懐かない猫を懐かせた、という所か。

「豪星?」

「ん?いやごめん、なんでもないよ」

自分の口の端が緩んでいた事に気付いて慌てて取り繕う。

にやにやしていた事についてしつこく聞かれては堪らない。理由を知ったら絶対怒るだろうから。

暫くすると本格的にお腹が空いてきた。近くに聳え立つ時計を見るともう12の文字を針が越えていた。

折角だから昼食も取ろうかという話に纏まり、再び席を立つ。今度は龍児もついてきた。

もう一度カウンターの前に立って、今度は別の場所に置かれたメニューを見た。

ラインナップは売店らしく、ホットドックとか、焼きそばとか、たこやきとか。

「全部食べたい」

「…この後の乗り物とかの事も考えて食べようね?」

早速というか、相変わらずというか、常の言葉を吐く龍児に釘を刺すと、ぐ、と口を引き結んだあと、しぶしぶといった風に「焼きそばみっつ」と隣で告げた。

豪星も焼きそばをひとつ頼むと、売店員さんが「直ぐに出来ますので少しお待ちください」と言って奥に引っ込んで行った。

別の売店員がひょっこり顔を出したかと思えば、「次の方どうぞ」と、いつの間にか豪星達の背後に並んでいた親子連れに声をかける。

此処に居ては邪魔かと思い場所を譲ると、丁度食べ物では無い物が売っている場所に近づく形になった。

龍児が既に、並べられた籠の中身を興味深そうに眺めていたが、食べ物以外を買う気は無いのか手は伸ばしていなかった。

豪星も暇つぶしをかねて籠を眺めていると、その中に懐かしい物を見つけて「お」と声を上げた。

「たまて箱だ」

「なんだそれ?」

ソレを手に取りしげしげと眺めていると、興味が移ったらしい龍児が近づいてきた。

片方の手を下ろし、もうひとつソレ―――掌大の、包装がされた箱を持つと、「これね」と口を開く。

「たまて箱って言って、この中にいろんな玩具が入ってるんだよ」

「おもちゃ?」

「そう、何が入ってるかはお楽しみってやつ」

お楽しみ、と言った所で龍児が一層興味深そうに箱を見つめてきた。

そんなまなざしを送られると豪星の方もつい感化されてしまい、珍しいしせっかくだからひとつ買ってみようかな、という気になってくる。

別に中身が欲しいわけじゃない、今自分がこれを買って、何が入っているか、というちょっとした遊び心を買うようなものだ。

丁度出来上がった焼きそばを渡すためこちらに呼びかける店員の元に戻り、ついでに箱を渡すと、焼きそばと箱の代金を払って席につく。

焼きそばよりも先に箱に手を伸ばすと、安っぽい包装を破って箱を取り出し、早速中身を開いた。

中には薄紙に包まれた掌大の四角い物体が入っていて、正体を確認しようと薄紙を取り除いた、…所で目を見開いた。

「うわー…まさかのPSのソフトだ、これは流石に無いだろう…」

確かに箱の入っていた籠に「ゲームが入っていれば大当たり!」と書いてあったような気はするが、一体何年前の大当たりなのだろうか。

これが箱に入っているという事は、あのたまて箱達は何年も箱が変わっていない可能性がある。

遊びで買ったにもかかわらず、何だかつかまされた気分だ。大体遊ぶにしたって本体もう無いよ。

「それ遊ぶやつおっさんの家にあったぞ」

脱力している豪星の目の前で、先に焼きそばを(既に二つ)平らげた龍児が、急に吃驚するような事を言うので「え!?」と声を上げてしまった。

「親父さんもやるのかなこういうの…あ、違うか、龍児君の為に出してきたのかな?」

「やってない」

「え?そうなの?」

「やり方知らない、ゲームなんて一人でどうやるのか分からん」

「ふーん?あ、そうだ、家に帰ったら一緒にやってみようか?龍児君さえ良ければだけど」

何となく思いついて提案すると、龍児が思った以上に嬉しそうな顔を豪星に向けた。

「一緒にやってくれるのか?」

「うん」

「ほんとに?」

「だってこういうの、友達とやった方が楽しいじゃないか」

そう言うと、龍児の顔がますます嬉しそうに変化した。それがつい楽しくて、「楽しみだね」と念を押してしまう。

再三言うが、懐かない猫が自分にだけ愛想を見せたような気分だ、言うと怒りそうだから言わないけど。これも念押し。

三つめを食べ終えた龍児が、豪星が焼きそばを食べ終えるのを待ってから直ぐ「早く行こう」と腕を掴んで来た。

ちょっと待ってねと制してから、食べ終わった容器をすべて屑籠に入れると、戻って「行こう」と今度はこちらから次を誘った。

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