龍児と共に車に連れ込まれ、来た道とは別の場所へ向かったかと思えば、どこぞのレジャー施設に放り込まれた。
遊ぶ以外は何をしろとも告げず、豪星に金を預けた後須藤は「5時には迎えに来る、じゃあな」とだけ言って車ごと去って行ってしまった。
TVCM資金も広告資金もなさそうな、寂れたそこを一通り見渡したあと、思い切り息を吐く。
小さな子供じゃあるまいし、そこそこ大きな男二人でこんな寂れた遊園地の中をどう遊べばいいんだろう、親父さん、投槍過ぎる。
いやあの人は自分達をまず「子供」だとみている節があるので、「子供ならば遊園地」みたいな風に考えているのでは無いだろうか。…あり得る。
しかし不思議な遊園地だ、雰囲気は一昔前風に古臭く、しかしもう少し向こう側に頭一つでかい不思議な建物が立っている。なんだろうあれ。
「龍児君、どうしよう…」
か、と振り返った時、びくっと肩が鳴った。ついでに口を噤む。
龍児が豪星の思惑とは全く別の顔で立ち尽くしていたからだ。
龍児は何度も首を振りながら、その目を爛々と輝かせている。先ほどのすっぽんなど文字通り、目ではない勢いだ。
「りゅ、龍児君…?」
恐る恐る、もう一度声をかけると、龍児がば!とこちらを振り向いた。
「おれ」
「うん?」
「遊園地遊びに来るの初めてだ!」
おーい、ちょっと待て、ちょっとまって。
「いやいや龍児君、遊園地なんて小学校とかで行ったでしょ?」
「…ダチの一人も居なくて唯学校の行事ってだけで遊園地に行った事をお前は遊びに行ったと言うのか?」
「すみませんでした」
噛みつかれそうな程機嫌が悪くなってしまったので、とりあえずご機嫌とりの為須藤から貰った金で近くに置いてあった自販機でジュースを買い、もう一度「ごめんね」と言って手渡した。
見た目の割りにあまり気にしてなかったのか、それ一つで半分以上眉間の皺を取った龍児についでに金の半分を手渡すと、行こうかと言って中に誘導する。
少し歩くと細長い、自販機よりも小さな箱にたどり着いた、上から下までそれを眺めてから、「へぇ」と声を上げる。
「券売機がある、今時珍しいね」
「こういうのが普通じゃないのか?」
「うん、もっと大きい所はね、フリーパスって言って、券一つ買えば後はどれでも乗り放題っていう所の方が多いよ」
「物知りだな、豪星」
「そうでもないよ、じゃ、どれ乗ろうか?」
「あれ」
あれ、と龍児が指差したのは券売機の近くにある大きなカップの群れだった。
カラフルな花の形に模してあって、時折人が乗ってはくるくると楽しげに回っている。
「カップの奴ね、分かった」
早速、液晶画面を操作して、出てきた券を二枚取り出す。
一枚を龍児に渡すと、缶を捨ててから早速二人で「乗り物受付」と書かれた看板に向かった。
暇そうにしていたスタッフの女性に声をかけて、買った券を手渡すと中に誘われた。
丁度、入って直ぐの所にあった赤色のカップに乗り込むと、龍児と対面になるように座る。
龍児は座った途端、目の前のお盆に目を丸くさせていた。
「乗り物に机があるのか」と面白い事を言うので、小さく笑いながら「違うよ」と訂正する。
「これ、回す奴だよ」
「まわす?」
「うん、こうして…」
ぐ、とそれを回そうとした時、独特な音が回りに響き渡った。同時に乗っていたカップが動き出す。
丁度良いのでカップの動きに合わせてぐる、っと盆を一回転させると、龍児の肩がびく!と鳴った。
「はは、驚いた?」
「…おう」
まだちょっと震えながら、恐る恐る龍児も盆に手を伸ばす、ぐる、と一回転させると、乗り物がくるりと回る。途端、目が嬉しそうに輝いた。
一度触ってしまえばもう平気なのか盆を掴んだまま龍児はぐるぐると回し続けた。楽しそうなので暫くは放っておいたが、
「ちょっと!龍児君回し過ぎだから!」
「なんだよ!回すものなんだろ!?」
「全力過ぎだ!!す、すとっぷ!これ以上やると…!」
やりすぎるとどうなるかを知らないのか、制止を掛けても龍児は止まらなかった。むしろもっと勢いをつけて回し始める。
結果、乗り物を降りた所で二人して地面に膝をつく羽目になった。おえ、と肩で息をする。
「だから言ったのに…」
同じような恰好で顔を青くさせる龍児を窘めるが、本人はそれを綺麗に無視して、「あれ乗りたい…」と弱弱しくジェットコースターを指差した。
「…はいはい、休憩してからね」
まぁいいかと、苦笑してから漸く落ち着いてきた身体を立ち上げる。
もう一度自販機で、今度はお茶でも買おうかと首を振った時、少し遠くに自販機では無くもっと良い物を見つけた。
後ろで何とか立ち上がったらしい龍児を手招きしてそちらに向かい、まばらに備え付けられた椅子とテーブルにまで近づく。
「なんだ此処」
「売店みたいだね、お茶買ってくるよ、龍児君は座ってて」
「おう、悪いな」
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