先ほどの建物の裏側、道路を挟んだ向こう側に件の店――喫茶店はあった。

煤けて寂れてはいるがきちんと営業しているらしく、擦りガラスの向こう側に人の姿が透けて見えた。

年季の入った扉を須藤が開けると、その背について豪星と龍児も中に入る。

テレビで特集されるような雰囲気は無く、本当に、地元の人が利用します、みたいな趣の店だった。

馴染みの無い顔が入ってきたことで、常連風な客が大げさに視線を寄越してきたが、須藤の姿を見つけるとひとつ、ふたつと視線が離れていった。

多分、須藤も常連客で、豪星達はその連れだという認識をしてくれたのだろう。

席がひとつ空いていたのでそこに座ると、早速手拭を持ってきてくれた中年女性に須藤が「とりあえずブレンド三つ」と言った。

それから、脇に置いてあった破れかけの厚紙を手に取り「どうする?」と豪星と龍児に尋ねてくる。

「メニューですか?」

「そうそう、おい龍児、何が食いたいんだ?」

「腹いっぱいになるやつ」

「はいよ、豪星はどうする?」

「じゃあ龍児君と同じものでお願いします」

「分かった、俺も腹減ったし食うかなぁ」

メニューの内側をざっと斜めに見渡した後、須藤はおもむろに手を上げ「ナポリタンみっつ!」と厨房へ叫んだ。

直ぐ様「はーい」という応答が返り、十五分もしない内に真っ赤な麺を乗せた皿が三つ運ばれてきた。

ケチャップで綺麗な赤色に仕上げられたパスタの中に大き目のウィンナーと、細く切られたピーマンが入っている。

芳しい匂いが鼻に届くと、思わずごくりと喉が鳴った。

腹が減ったらよくこれを食べてたんだと、若い時の事を語り始める須藤に、全く聞き耳を持たず既に半分を食べ終えた龍児。

その隣で、ぱく、と麺を頬張り、ふわっと口元をほころばせた。

ケチャップが甘くて美味しい。ウィンナーが塩辛くて、ピーマンが少し苦くて、それらが全部が口の中で素晴らしい役割配分されていく。

もぐもぐ食べ続けていると、その内自分も須藤の話が耳に入らなくなってきた。

「お前ら聞いてないな」

目ざとく気づいた須藤がちょっと機嫌の悪そうな声を上げたが、すぐ、「そんなに美味いかよかったな」と笑った。

流石にそれには顔を上げて「はい」と答えた。

真っ先に龍児の皿の中身が無くなり、次いで須藤、最後に豪星の皿の中身が無くなる。

一息つくため先に運ばれていた水を飲みこむと、その縁に赤い線が残った。

はっと顔を上げると、隣で同じように龍児が顔を上げた、顔を見合わせると、お互いの口の周りが真っ赤になっていた。

すぐに紙布巾を手に取り口を拭う。結構恥ずかしかった。

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