先程から何処かへ行こうとしているが、もう時刻は10時を回っている。

こんな時間に何処へ行くのかと何度も尋ねるが、一貫して、龍児の答えは同じだった。

どうやら、酔っている所為で口も思考も覚束ないらしい。

「龍児君、しっかり」

「いかねぇと、探しに……」

「明日でも良いじゃないか、ほら、掴まって」

「…何処に居るんだ、…………めん」

「…おっと!」

疎通の無い問答を繰り返していたが、やがて力尽きた龍児が再びその場に落ちて眠り始めた。

今度は深く寝入ったのか、揺り動かしても起きる気配が無い。

答えが出ないまま放置され何となくスッキリしなかったが、当人が落ちてしまったので致し方ない。

とりあえず毛布を一枚持ってこようと共同部屋に向かった。

龍児の布団の束から毛布を一枚抜き取ると、居間に戻り、天井を向いた彼の背にそっと掛けた。

その途中、背後で何かが動く気配を感じた。振り返ると、何時の間にか須藤が起きあがって頭を掻いていた。その顔にはまだ若干の赤味が差している。

「あー…起きちまった」

「親父さん」

「おう、豪星、おはよー」

「まだ夜中ですよ」

「ですよねぇ、お、何だ龍児潰れたのか」

すうすうと眠り続ける龍児の横顔を、須藤が楽しそうに眺める。

何分もそうしてから、不意に須藤がため息をつき、何処からか煙草を取り出して火をつけた。

ふ、と煙を吐き出してから、徐に口を開く。

「…顔色良いなぁ、龍児」

酒で血流が良くなってるんじゃないですか?と言えば、そうじゃねぇよと須藤がゆるく首を振る。

「普段の話だよ」

「普段?」

「こいつ、家出してるって言っただろ?何日野宿してたんだかしらねぇが、俺が拾った時は埃塗れで、顔なんかげっそり痩せこけてたんだ、傍から見ると相当悲惨だったんだが」

「それって、龍児君が物を食べられない病気もあったからですか?」

「おう、そうだ、…あれ俺お前に言ったっけかな?」

「はぁ、周りの感じから、後は本人にちょっと聞きましたから、齧る程度には…」

「そうか、じゃあ最近治ったっぽいのも知ってるか?」

「はい」

「ウチに来ても暫くは真っ青な顔色だったんだが、最近は随分もちもちしてきたもんだ、何がどうなってんのかよくわかんねぇけど、うん、よかったなぁ龍児」

一旦会話が切れ、煙草も切れる。

別に気まずい訳では無かったが、もう少し話がしたくて、豪星はふと思いついた疑問を口にした。

「親父さん、さっき龍児君が寝る前に変な事言ってたんですけど」

「変な事?」

「はぁ、何でも、探しに行くとか何とか…」

「…あー」

新しい煙草に火をつけながら、須藤が思い出したような声を上げる。

「お前気付いて無いかもしれないけど、龍児な、しょっちゅう出かけてるんだよ」

「え?」

「昼は働かせてるから、大体夕方からか休みにな、今日は珍しくお前と出かけてたみたいだけど、何時もは仕事と飯と仮眠以外ほとんど出歩いてる状態なんだよ」

「なんで…?」

「何でもよ、誰かを探してるらしい、それ以上の事は散々聞いても口を割らねぇからしらねぇんだけど」

「はぁ…」

「俺は別に保護者じゃねぇし、それが原因で帰れ無いっていうんなら止めはしないけどよ…時間が時間だと、程ほどにしとけとは言いたくなるな」

そういえば、以前網戸が不自然に開いていたのを思い出す。もしかしたら、あれは彼が出かけて行った痕跡だったのだろうか。

「お前みたいに普通の反抗期なら当たり前で済むんだけどな、龍児はちょっと不思議な所があるよ」

「…ははは」

…俺の事が好きだって男に迫られて、ちょっと考える為に出たとか、自分も相当奇特な方だと思うがな。

「しっかし、ガキが此処までする女ってのはどんだけ良い女なんだろうな」

「女の子なんですか?」

か?と言った途端、それまでしんみりしていた須藤が、急に相好を崩し、爛々とした顔で豪星に迫ってきた。悪戯を見つけた時の子供のような顔だ。

「俺の勘だがな、あいつは相手に心底惚れてんだよ!そんで追いかけてきたんだ!」

「はぁ…」

「飯が食えなくなってたのも、あれだ、あの人恋しくて飯ものどをとおらねぇ、って奴だな」

「はぁ…」

「青春だなぁおい、俺はそういう話が大好きでな、そうそうこの前テレビでやってた」

それまで龍児の話をしていたはずなのに、段々と話が逸れてきた。

仕舞には台所から再び酒を持ってきた須藤に絡まれ、今度は豪星が管を巻かれる羽目になってしまう。

誓って間もないので、今度は勧められても飲みはしなかったが、時間が過ぎ去る度物凄く眠くなってきた。

ねむいなぁ、と思いながら話を右から左に聞いていると、その内見かねたらしい沙世がわざと須藤に強い酒を飲ませ、もう一度酔い潰してくれた。

「ごめんねぇ」と謝る沙世に首を振りながら、豪星は適当にその場を切り上げ、龍児と須藤を置いて部屋に向かった。

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