家に帰り、居間の畳に座った途端、何故か硝子の器が三つ出てきた。

須藤と豪星、龍児の目の前にそれらが配られると、満面の笑みを浮かべた須藤が、何処からか一升瓶を取り出してくる。

…いやいや待て待てこの流れって。

「おう!お前等も飲め飲め!」

やっぱりか!

「ちょちょちょ、ちょっと待って下さい…!」

「なんだ豪星、俺の酒がのめねぇのか!」

「そんな定番な台詞言ってもいけませんよ!」

「無理よぉ豪星君」

「沙世さん!?」

「この人、こうなるととてもしつこいもの」

一杯位付き合ってあげたら気が済むからと、妥協を進める沙世にうーんと唸る。こんな事が立て続けに起こっていいものだろうか。

前の経験のお蔭で酒に対する偏見はなくなっていたが、今までこんな事が無かった所為で妙な罪悪感を感じる。

唸る豪星の隣で須藤が「敷地内の法律は俺だ気にするな」とか何とか言ってるけど、全然説得力が無い。

龍児はどうしているだろうかとふと気になり、ちらりと反対を覗くと、…既に口を付けている後だった。しかもペースがかなり速い。

こんな事前にもあったな、別の人間で、二度お目にかかるとは思わなんだ。

「りゅうじー、お前飲める口だなぁ」

「うめぇ」

「だろだろ?俺のとっときよ、吐く迄飲むぞ!…俺はなぁ龍児、息子と酒を飲むのが夢でよぉ…」

かなり酔っているのか、段々と須藤が管を巻いてきた。巻き込まれた龍児はちょっと迷惑そうな様子だったが、反抗する意思は無いようだ。

豪星もちびちび、貰った分だけ飲んでいると、つまみが3品出てきた所で突然須藤が後ろに倒れた。

途端、あらあらと手に毛布を持った沙世が、寝息を立て始めた須藤にソレを掛けた。

「付き合ってくれて有難う、貴方達もほどほどに切り上げなさいね、食器とかはそのままにしておいて良いから」

カップに残った分だけの酒を残して沙世は去って行った。残された豪星は、同じく残された龍児を覗き見て苦笑する。

「顔真っ赤だよ龍児君」

「おめぇもあけーよ」

「そう?そうかな?はは、駄目だなぁ俺達、高校生なのにさ」

「ちげぇし」

「え?…あ、もしかして二十歳越えてる、とか?」

見た目から、大体見積って自分と同じ歳くらいかと思っていたが、そういえば実際何歳なのかを聞いた事が無かった。

笑ったりすると幼く見えるので二十歳前後には見えなかったのだが、童顔なだけだろうか?

「ちげぇし」

「え?違うの?って、まさか………あれ!?中学生!?」

「うぃー」

「ちょ!流石に中学生は不味いだろ!?」

学生という時点でお互い不味いのだが、豪星の立場よりも更に下となるともっと不味いのは確実だ。飲んでしまった後ではもう遅いのだが。

「と、とりあえずお水貰ってくるから…!」

「わりー」

「ああもう…」

今回も流されてしまったが、こんな事態があると矢張りこういう事が頻繁にあってもいけないなと思う。

自責を持って席を立つと、豪星は台所に水を取りに行った。

戻ってくると、何時の間にか潰れたらしい龍児が机に顔を預けたままぐぅぐぅと寝入っていた。

その肩を叩いて、水が飲めるかどうかを尋ねると、龍児がむにゃむにゃと口を動かした。

「だいじょうぶだ、もう行くから…」

「え?違うよ龍児君、水を…」

「いらない、もう行くから、さがしにいくから…」

「龍児君?」

「いかねぇと…」

ふらりと、不意に龍児が目を開け立ち上がり、歩きだした。しかし直ぐ、襖に盛大にぶつかりその場に転げ落ちる。

倒れた龍児に慌てて近づき、意識が定かでない彼に「大丈夫?」と尋ねると、焦点の合わない目がぐるんと上を向いた。

「いかねぇと」

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