好きな物を食え、と言われたがぱっと思いつかず、とりあえず棒を倒した先にあったうどん屋でうどんを奢って(?)貰う事になった。
店に入るなり適当な席についた龍児を追って対面に座り、店員にお冷を貰った所で、豪星は月見うどんを、龍児は海老天乗せうどんをかつ丼付きで大盛りに頼んだ。
程なくして出来上がった食事が目の前に運ばれると、備え付けの割り箸を手に取り、ついでにぱんと手を叩く。
するすると、木の棒で麺をすする最中、ちらりと、豪星は龍児を上目遣いで伺った。
「あの、龍児君」
「あんだよ」
「さっきから倒してる棒の事なんだけど…」
どんどん膨れ上がっていった疑問を漸く打ち開ると、ふん、と鼻を鳴らした龍児が、特盛りのうどんを啜りながら「大したことじゃねぇよ」と言った。
「昔から、俺が差した方向にツキが回るだけだ」
いやそれどんだけ大した事なんだよ。そんな能力あったら人生チートじゃないか、藁しべ長者も真っ青だ。
「あれやって結果的におっさんの所に辿りついた」
「す、凄いね…なんていうか、負け無しじゃないか」
色々な意味を含めてそう言った途端、龍児の顔にふと影が差した。
ず、とつゆを飲みこんだ後、丼を置き、「そうでもない」と抑揚の無い声で言う。
「…全部が全部じゃねぇし」
「そうなの?あれ、ていうか、親父さんの所に辿りついたって…?」
そういえば彼も家出少年だった事を不意に思い出した。
自分は相当特殊な理由で家を空けたが、こんなチート能力を使って家を出た龍児も、それなりに特殊な理由があるのだろうか。
「……龍児君はどうして家を出たの?」
踏みこんで良い物かどうか迷ったが、好奇心に負けてつい尋ねてしまった。
すると、尋ねた途端龍児が不機嫌そうに眉を顰めたので、若干後悔してしまう。
「…何でそんな事聞くんだよ」
「え、いや、あの、ちょっと気になって、…友達だし」
興味があっただけですと言うと怒られそうだったので、苦しい言い訳をすると、突然、龍児がはっとした顔で豪星を見た。
心なしか、目がキラキラしているのは気のせいだろうか。
「お」
「うん?」
「俺の心配をしてくれてるんだな、豪星!」
「…うーん」
そうとも言えるけど、そこまで勢い込んで感動される事は言っていない、筈。
…この人ホントに友達居なかったんだなと、ついしんみりしてしまう。
「まぁ、心配ではあるかな」
このままでは友達詐欺にでもあってしまいそうだし。
「そうか!そうだよな俺達友達だもんな!邪険にして悪かった、何でも聞いてくれ」
「ほどほどで良いよ」
「水臭いぞ豪星!俺達親友だろ!」
おっと、今さりげなく親友に進化したぞ。
「そうだな、俺が此処に来たのは」
「うん?」
「…アイツを、」
「ごうせーい!」
龍児が何かを言いかけた瞬間、突然背後からぎゅぅと抱きしめられた。ぐぇ!と呻いて間も無く、辺りに酒の匂いが充満する。
酒くさい!と驚く豪星の隣で、何時もの仏頂面を取り戻した龍児が「何で居るんだよおっさん」と冷静に状況を分析した。
首だけで振り返ると、確かに、何故か須藤がそこに居た。
「えー?此処、俺の知り合いの店ですー、なー?」
須藤がどこかに同意を求めると、座っていた席の向こうで、店主らしき男が「飲んでますねぇ」と苦笑する声が聞こえた。
「ほどほどにして下さいね須藤さん、酔うとめんどくさいんですから貴方」
「何言ってんだ、まだまだ今からが本番だぞー、つーわけでおいガキども、ついでだ帰るぞ、金此処においとくなー、ツリはいらねぇから」
「はーい」
「そんじゃ行くぞ!」
「おわ!」
須藤は豪星を椅子から引きずり下ろすと、小脇に抱えるようにして店を出た。片方の腕には、いつの間にか龍児の体も抱えられている。
それから、丁度目の前に止まっていた車の後部座席に豪星を押しこみ、その横に龍児を詰め込んだ。その後直ぐ、助手席からどすん!と大きな聞こえた、おそらく須藤が前に乗り込んだ音だろう。
運転席には沙世が座っており、後ろに乗せられた豪星と龍児に振り返ると「おかえりー」と帰りを労ってくれた。
「貴方達もこっちで遊んでたのね」
「はい、まぁ…」
「私達も偶にはって遊びに来てたんだけど、この通りこの人羽目を外しちゃって、帰ろうと思ったんだけど、此処の店の人が知り合いでね、この人が気まぐれで顔だけ見せてくなんて言うから寄ったんだけど、帰り際に会えるなんて奇遇だわぁ」
…隣で今ぼそりと「帰るの楽になった」って聞こえたぞ、出たなチート能力。
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