共感はする、とはいえ、一人も友人が出来なかったっていう事は無かったぞ?何か嬉しそうな顔をしてるから敢えて言わないでおくけど。

しかし、この興奮ぶりを見るに、彼はかなり寂しい子供時代を過ごしたのだろう。

今でこそ顰め面の多い彼だが、もしかしたら昔はそうでも無かったのかもしれない。

愛想が無くなる程の寂しさとは一体どんなものなのだろうか、そんな事を考えていると、しんみりとした気持ちが湧いてきた。

「大変だったね龍児君」

豪星が労った瞬間、龍児がぼっ!と顔を赤くさせた。「そうでもない」と素っ気なく振舞おうとするが、耳まで赤い。多分嬉しかったんだな。

いじくると怒りそうなので黙って見ていると、暫くして気を取り直した龍児が「よし!」と膝を叩いて立ち上がった。

「友達一号記念だ、今日は俺が盛大に振舞ってやる」

「えー?俺達千円しか無いよ?」

須藤から渡されたのは千円札が一枚、二人で足して二千円、まぁ精々昼御飯におやつをつける位だろう、盛大とは程遠い。

しかし、龍児は「まぁ見てろ」と自信たっぷりに言うと、出かける支度を簡単に済ませてから玄関へ向かった。

慌てて自分も準備をし、次郎にリードを付けて追いかける。

出入り口付近で立ち止まっていた龍児の手には、何時の間にか長細い木の枝を握られていた。

その枝の先をとん、と雨に濡れた地面に置く、かと思えば、ぱたん、と直ぐ前に倒す。

「こっちだ」

倒した棒の先を指差し、龍児はさっさと前を歩き出した。

その後も龍児は数メートル歩く度棒を倒し、ある時は右に、ある時は左に、時にはひたすら前進しながら歩き続けた。

頭に疑問符を飛ばしながらとりあえず龍児の後を追うと、暫くして見覚えのある場所に出た。数日前、須藤に連れて行って貰った商店街の入り口だ。

入り口付近で一度立ち止まった龍児は、再び棒を倒してからさっと歩きだした。立ち並ぶ店の中間に迄くると、何の合図も無く、一つの店の中に入って行く。

店先に大きめの椅子を構えた、動物同伴容認シールを貼った店。此処も見覚えがあった。

龍児が椅子に腰かけると、同時に奥から肉付きの良い女性が出てきた。この人にも見覚えがある。

女性は龍児を見るなり丸い目を更に丸くさせ、わなわなと震えだした。

とんだ仏頂面に肝をぬかしたのかと思いきや、女性は行き成り相好を崩し、勢い良く龍児に近づいて来た。

「龍児君!」

「よぉババァ、久しぶりだな」

「まぁまぁ顔色が良くなったじゃない!ごはんはもう食べられるようになったの!?」

「おう、ぼちぼちだ」

「ぼちぼちじゃ駄目よぉ!ほらたくさん食べなさい!」

蒸した芋のような赤ら顔で、ほくほくと微笑んだ女性は、奥に一度引っ込むと、手に盆を持って戻って来た。

盆の上には、揚げ物や、焼き物や、甘味など、目を疑う程の量の食べ物が乗っている。

「わりぃな」

椅子に置かれた盆の中身を、さも当然そうに食べ始める龍児に呆気を取られる。

立ちつくしていると、暫くして豪星に気付いたらしい女性に「あらあら!」と手を取られた。

「貴方も来てたのね!今日はどうしたの?」

「あ、その、彼と一緒に…」

「あら?龍児君とお友達だったの?」

「ほうだ、おへのダチはんら」

もごもごと咀嚼しながら、龍児が自分の隣をぼんぼんと叩く。多分、座れと言いたいのだろう。

大人しく座ると、何時の間にかお茶を汲んでくれていた女性が、二人分ソレを隣に置いてくれた。

「お前も食え」

「はぁ…いただきます」

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