「…ちょ、そんなに食べないでよ!俺の分なくなるって!」
「ふるへぇはやひほんふぁひだ」
「既に3つ無いだと…!い、いただきます」
…成る程、この量は龍児対策か、流石沙世さん分かってらっしゃる。
何とか両手におにぎりを確保して、その片方をもぐもぐと食む、最中、ふと、龍児の横顔を盗み見た。
既に恒例となっているリス顔の龍児が、忙しなく口元を動かしている。
―――この口が自分の口と話すようになって早数日。
てんやわんやしたものだが、こうして普通の関係に迄落ち着ける事が出来て本当に良かった。
「…あんだよ」
「なんでもないよ」
こっそり見ていた豪星の視線に早速気付いた龍児がガンを飛ばしてくる。
これ以上彼の気に障らない内にさっと視線を外して、再びおにぎりに口をつけた。
龍児はといえば、既に食べ終えたおにぎりの箱を脇において、早速おかずの方をむしゃむしゃと侵略している。
くれと言えば分けてくれるけれど、箱を渡す気ないようだ。
お茶でも飲もうかと、手持無沙汰になった両手で水筒を開けると、中から熱気と芳しい匂いが立ち上ってきた。
お茶とは違う匂いだったので不思議に思い、傾けて中身を確認して、驚いた。
「あれ、こっちの水筒味噌汁かな?」
もう少し傾けて水筒の蓋にソレを入れる。一口分口に含んでから、ぺろ、と唇をなめた。しょっぱい、やっぱり味噌汁だ。熱中症対策かな?
という事はもう一つの水筒の方にお茶が入っている訳か、ああ、そういえばカップも二つ渡されていたな、成る程、使い分けて飲めという事か。
…って、龍児がこっちをぎらぎらした目で見ているぞ、欲しいんだな、欲しいだね、良いよあげるよ、だから自分ごと食べそうなその顔止めて。
自分の分は確り確保してから、空のカップに中身を注いで龍児に渡すと、早速カップの中身を飲み干した龍児が、次に豪星の手から水筒を奪い直接口をつけた。
わぁ、熱く無いのかな。
「…そういえばさ」
また手持無沙汰になった手で茶を飲みながらのんびり田圃(というかそれしかない)を眺めていると、不意に疑問がせり上がって来た。
答えてくれるかどうかは分からないが、そのまま龍児に話し続ける。
「これってさ、何で四隅を刈るんだろうね、どうせコンバインを入れるなら一挙にやっつけた方が効率良くない?」
須藤は稲を収穫する前に、必ず田圃の四隅を豪星と龍児に刈らせていた。
どうせ後で機械を入れるのならば、一気に刈ってしまっても良いのではないのだろうか?
「そうすると隅で曲がった時に稲がぐちゃぐちゃになるんだとよ、しかも機械の中で絡まって壊れる時もあるって言ってたぞ」
隣で同じく茶を啜っていた龍児が思ったよりも律義に答えてくれた。
吃驚したが、折角答えてくれたのに驚きを表面に出すのも失礼なので、慌てて笑みにすげ変える。
「そうなんだ、良く知ってるね」
「別に、俺もお前と同じ事考えておっさんに聞いただけだ」
「そっかぁ、…今日はお米運ぶのかな、俺まだ腕痛いんだよね」
「直ぐに慣れろよ、どんくせぇ」
「すみません」
それからは特に何も話さず二人でぼんやり座り込んでいたが、やがて隣でどさりと何かが倒れる音がした。
振り向くと、龍児が身体を横たわらせ、すぅすぅと寝息を立てている姿が見えた。
ああ、いいなぁと思う。実はさっきから豪星も眠くなってきていた、多分満腹感からの睡眠欲だろう。
でも二人で寝たら寝過ごしてしまいそうだ。自分は確り起きて居よう。と思えたのは数分迄だった。
結局豪星も知らぬ内に寝こけ、二人で2時間ぐっすり寝た後、揃って須藤にがっつりと叱られてしまった。
16>>
<<
top